こんにちは、arrowです。
前回に引き続きミュージック・ビデオ(以下、MV)について書いていきます。
前回の文章の最後で、「MVっぽい」MV(断片的な〝イメージ映像〟を、岡崎体育さんが言うところの「ドンピシャのタイミング」で編集した、「音楽と映像が絡まり合う」ようなMV)の「気持ちよさ」には「罠」が隠れていると述べました。
では、その「罠」とは具体的にどんなものなのでしょうか?
MVという名の「麻薬」
「気持ちいい」を過剰摂取すると人間の判断力は鈍ります。
それこそ、麻薬のように。
突然ですが、あなたは戦争が好きですか?
戦争に対して、どんなイメージを持っていますか?
好き、と答える人はあまりいないのではないでしょうか。
どんなに勿体ぶった理由をつけようと、人間が人間を殺すことほど愚かで
悲しいことはありません。
だから当然、そのイメージもネガティブなものの方が多いでしょう。
では、例えば戦争の断片的なイメージ映像(戦闘機が飛び交うとか、銃で撃たれた兵士がゆっくり崩れ落ちるとか、国旗が風にはためくとか)に、
あなたの好きなミュージシャンの曲を合わせて、
MVのように「ドンピシャのタイミング」で編集してみるとどうでしょうか。
本来「悲しみ」「痛み」「恐怖」などが先立つはずの戦争へのイメージが、
何となく「かっこいいもの」「勇ましいもの」「感動的なもの」
に変わったりしないでしょうか。
そしてそれは、どこか「気持ちいい」ものではないでしょうか。
「映像」が人に与えるイメージの力は強力です。
「音楽」がそれに合わさることで、その力は絶大なものとなります。
もし、私が戦争を推奨する権力者だったら、
真っ先にテレビや映画などの映像メディアを掌握しようとします。
そして好戦的なMVをたくさんつくり、
たくさん「気持ちよく」させて、
少しづつ判断力を鈍らせていきます。
もしかしたら既にそれは始まっているかもしれませんよ。
だから、「気持ちいいこと」を全否定する気はないのですが、
「音楽と映像が絡まり合い」始めたら、
少し疑いの目を持った方がいいかもしれません。
「罠じゃないか?」と。
もし、それをつくっている人が信用に足る人物であれば、
先に私が述べたようなことは当然知っているはずなので、
あなたに無自覚に「麻薬」をすすめたりはしないでしょうから。
呪われた映画『意志の勝利』
第二次世界大戦直前のドイツで『意志の勝利』という映画がつくられました。
ニュンベルクで10日間かけて行われた、ナチス党の第6回全国大会の様子を記録した映画です。
監督は〝天才〟レニ・リーフェンシュタール。
(https://ja.wikipedia.org/wiki/意志の勝利より)
※『意志の勝利』撮影中のリーフェンシュタール
戦後(中略)本作でのナチスとの関わりを追求された監督は「興味があったのは美だけ」と発言し、自らの政治性を否定している。しかし、その映像美によってナチスは拡大し、世界に厄災をもたらした一面もあることは否定できない。(DVD解説文より)
ドイツ本国では、この映画は今でも上映禁止で、「呪われた映画」とされていると聞いたことがあります。
(http://nikkidoku.exblog.jp/14511016/より)
映画『意志の勝利』は芸術なのか、ナチズムなのか?
それは今でも賛否両論ありますが、
何にせよ人を引き込む力を持った映像であることに違いはありません。
そして勿論、要所要所で勇ましい音楽もかかります。
「MVっぽい」MVの快楽の虜にされている現代の人々の前に、
いま再びこれほどの「映像」が現れたとして、
果たして正しく距離を置くことができるのでしょうか?
あっさりとその「罠」に嵌ってしまうのではないでしょうか?
(arrow)