映像系の編集用語の中に粗編集という言葉があります。
編集の仕事に少しでも携わったことがある人は「粗編(あらへん)する」という言葉に耳覚えのある人もいるのではないでしょうか。
粗編集とはどんなもののことを言うのでしょうか?
具体的に解説してみたいと思います。
粗編集の意味
粗編集とは、撮影した素材の中からOKカットのみを切り出して、撮影前に想定していたシナリオの順番通りに動画コンテンツを並べ、つなぎ合わせたもののことを言います。
粗編集の時点では特に特殊な加工はしません。
本当に録画した素材からNGを切り捨て、OKの部分を順番通りに繋ぐだけの編集のことを粗編集といいます。
この粗編集を見ることによって、全体のおおまかな流れをだいたいつかむことが出来るため、映像制作側がこの粗編集をして、クライアントと一緒に確認をしたりするのに粗編集の試写会などをしたりします。
実はドラマや映画などはシナリオの順番通りに撮影することはほぼないと言っても過言ではありません。
それは撮影するスケジュールだったり、ロケ地などの都合です。
撮影はなるべく効率的に進められますから、同じロケ地で取れる映像はその場で全て撮りきってしまうのが基本なんですね。
例えばシナリオが
- シーン1朝
- シーン2夜
- シーン3朝
という順番で時系列的には2日に渡っているシナリオ展開だとしたら、撮影するときは
- シーン1&3朝
- シーン2夜
という風に撮影をすることによって2日にまたがっている作品を1日で撮りきることができる、ということです。
つまりこの場合、テープには
- シーン1&3
- シーン2
の順番で映像が撮影されていますから、これを始めから終わりまでみても時系列がぐちゃぐちゃでストーリーがよくわからないんですね。
それを粗編集して
- シーン1
- シーン2
- シーン3
と直してあげることによってシナリオ通りの順番で撮影した素材を通しで見ることが出来る、というわけです。
つまりこういった撮影方法をやっていると、ドラマなんかでもラストシーンだけを先に撮影してしまう、なんてこともあるんですね。
私たちが普段視聴者として目にしている流れと必ずしも同じ流れで撮影は進んでいないんです。
なのでそういった意味でも演技に苦労している役者さんは多いですね。
「ストーリーのどこを撮影しているのかよくわからないままに撮影が進んでしまった」と話している役者さんもよく見かけます。
そしてこの粗編集の作業、以前は動画素材は今のようにデジタルではなくテープだったため、実際にテープを切りはりして編集が行われていました。
今はデジタル素材になったのでずいぶん時間の短縮になりました。
こういったデータのデジタル化は現場に女性が増えてきた理由にもなっていると思います。
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仮編集との違い
粗編集と類似語として仮編集(かりへんしゅう)という用語もあります。
粗編集は特殊加工をせず、OKテイクを並べただけのものであるのに対して仮編集は限りなく本編に近い編集になります。
粗編集よりも仮編集の方がタイトルやクレジットが入っているのでより本編に近いんですね。
ただ、仮編集も本編に比べて、まだ編集しきれていない素材です。
編集作業の大雑把な流れ
粗編集
映像編集作業の中で一番最初に行われるのが粗編集になります。
この粗編集か仮編集の時点で、クライアントとのすり合わせのために一度チェックが入ります。
基本的に1時間のビデオを制作する場合は1時間5分程度の尺(長さ)の素材を作っておいて、あとでどこをカットするのか、ということを相談する形になります。
仮編集
粗編集の後に仮編集をします。
ここでは映像の加工なども行われ、タイトル、クレジットも挿入されるので本編に近い素材ができてきます。
場面転換の効果なども入れられたりします。
MA編集
映像素材ができたらそこに音を入れていく作業になります。
これがMA編集。
MAはマルチオーディオ(Multi Audio)の略ですがこれは和製英語です。
後ろで流れている音楽を付け足したり、効果音、アフレコがある場合はナレーションやセリフの付け足しもここで行われます。
番組を盛り上げるために笑い声や拍手の音も効果音として足されている場合が多々あります。
不思議なことに感じるかもしれませんが、こういった効果音が全くないと番組ってとても寂しく感じるものなんですよ。
この効果音のつけ方が番組を面白くする鍵になることも多々あります。
特にバラエティ番組を見るときなんかは音に注目してその番組を見てみても面白いかもしれません。
完パケ
諸々制作側とクライアントからOKが出たらそれを記録媒体に収録します。
出来上がったものを完パケ、といい、これが本編として放送されることになります。
粗編集の大切さ
映像編集において粗編集はとても大切なことになります。
編集している側としては日常茶飯事の作業になりますが、クライアントさんは編集の内容、撮影の手順などを把握しているわけではありません。
依頼主から依頼されたことを制作できるのが映像制作ですが、それが必ずしもクライアントの想像通りのものになるとは限らないので
粗編集をしたものを見てもらうことによって全体像をイメージしてもらう、ということはとても大切なことなんですね。
ものを作る、ということは人と人との意識のすり合わせがとても重要になってきます。
テレビで求められる人材も、結局は気持ちがある人、というところな気がするのもこのせいでしょう。
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