IT業界はプロジェクトごとに開発するため派遣で働く人が非常に多いのですが、テレビ制作の現場も派遣形式で働く人が大変多いんですね。
特にテレビ局の制作現場で働く人のほとんどは局員ではなく他の会社からきているスタッフです。
自社以外のところで働く、派遣という形です。
テレビもIT業界と同様、番組というプロジェクトごとに作り上げていくところは似ています。
また、ITはプログラミング、エンジニアとしての特殊技術を持っている人ですが
一方テレビも映像制作という特殊技術を持っている人たちで作り上げていくので似ていないようで似ている部分があるわけです。
さて、派遣に関する法律が派遣法なのですが、この派遣法は平成30年の秋から大幅に改正されます。
特に大きいのは特定派遣が完全になくなることですね。
このことはテレビ業界にどんな影響があるのか。
特定派遣がなくなることで頭を抱えている番組制作会社が実は多いのではないでしょうか。
一般派遣の会社と特定派遣の会社はどう違うのか
派遣業をするためには
- 「一般派遣」
- 「特定派遣」
のどちらかの資格を取らなければいけません。
国からもらう資格です。
では、どちらの方が取得するのに難しいかというと、圧倒的に「一般派遣」の方が難しいです。
一言で言うと、特定派遣は申請だけで、誰でも取れるもの。
一般派遣は非常に厳しい審査に通過した企業だけに認められる資格、と言っていいでしょう。
この命名については、お役所が決めたことなので文句は言えませんが、前々からなぜこんな紛らわしい付け方をしたのだろう、と感じていました。
「特定」という言葉がつくとあたかも特別、スペシャル、という感じがつきまといますよね。
一方、「一般」というと、誰でも取れる、安易というイメージがつきまとうんですね。
ところが実際は真逆なのです。
そもそも派遣という仕組みは意外に難しく、正しく理解している人は少ないです。
特に働く場所である、派遣先の管理者は知らない人が非常に多く困ったことです。
その結果派遣先を含め「特定派遣」の会社、というだけで何かしらきちんとした特別な会社だと錯覚してきた人が少なくないように思います。
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テレビ業界の派遣はどうして始まったか
派遣という働き方は昔からありました。
でも法的に整備されたのは、労働者派遣法ができた1986年のことです。
それほど古いことではないんですね。
この頃何が起きていたかというと、一般企業にコンピューターがどんどん導入され始めたころでした。
コンピューター開発に大量の人が投入されるようになると、エンジニア、プログラマといった特殊技術を持った人達の派遣が急激に増えてきたんですね。
当時、コンピューターはまだ新しい業界だったため、一人のプログラマーを雇うために派遣先企業が出す派遣料金はかなり高額でした。
駆け出しのプログラマーでも月額100万円近い金額を出すのは珍しいことではありませんでした。
熟練のプログラマーであれば150万も当たり前でした。
その結果、小さいIT派遣会社が乱立し、我も我もとプログラマーを送り込むようになったのです。
そして、人が足りないときは別の派遣会社に声をかけ、二重派遣が横行するようになりました。
当時、派遣先が出す派遣料金は高いはずなのに、本人にはビックリするような低賃金しか渡っていなかったとか、
本当の所属会社と、建前上の所属会社が異なる、ということも当たり前に横行していたんですね。
そして少し遅れてテレビの制作現場にも派遣の仕組みが徐々に入ってくるようになりました。
それまでも派遣の形はあったのですが、テレビでは業務委託という仕組みを主に利用して制作していたんです。
ところが、実際の働き方はどう見ても業務委託ではない、
ということになり、テレビ業界にも派遣の資格をもち、スタッフを派遣するという会社が増えてきたわけです。
そしてITと同様、小さな会社がたくさんスタッフを送り込むようになりました。
ただ、ITとテレビが異なる点がありました。
IT企業は、ある会社に所属していたプログラマーが、力をつけると独立して自分で会社を作って派遣する、のが繰り返され、新しい小さな会社がどんどん乱立するという事態になっていたのに対し
テレビはもともと番組を作っていた制作会社たくさんありました。
それらの制作会社が、手すきのスタッフを別番組に派遣するところから始まっているということです。
そのため、もともとあった会社が派遣も始めたという流れでした。
当時テレビは絶頂期でしたから、小さな制作会社は多数存在していたんですね。
ところが番組というのは常に固定で、ずっとあるわけではありません。
視聴率が悪ければ打ち切りになりますし、番組が終われば、手が空いているスタッフが出てきてしまうわけです。
そこで手の空いたスタッフを派遣でテレビ局に送り込む、または大きな制作会社に送り込む、ようになってきたのです。
そのためにこぞって特定派遣の申請をして派遣業をするようになったんですね。
ではなぜ今、特定派遣は認めないというようなことになったのでしょうか。
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特定派遣の抜け道
平成30年の秋からは特定派遣というのは完全になくなります。
今、特定派遣しか持っていない企業は、もし派遣業を続けたいのであれば、厳しい一般派遣の審査を受け、許可をもらわなければいけなくなりました。
なぜ特定派遣はなくなるのでしょうか。
そもそもなぜ、特定派遣がそんなに簡単に誰でも取れたのか、というと、それは国が放っておいても安心なケースだったからです。
つまり本来、特定派遣は、正社員を派遣するだけ、という意味合いがあったのです。(難しく言うと、常用雇用という言葉を使うのですが)
正社員を一定期間だけ他の会社に派遣します。
番組(プロジェクト)が終わったら自社に戻ります。という安定的な働き方なわけです。
だからどんな会社も簡単に申請だけ出せば、はい、オッケー!とう感じで取れたんですね。
ところが、実際には正社員ではなく、一年の契約社員で雇用して、派遣で送り込み、続くようならさらに契約で一年伸ばして派遣する、という形です。
行き先がなければ、契約終了で辞めてもらうという不安定な事態がとても多くなってしまったのです。常用雇用とは言えませんね。
しかも特定派遣は小さな企業でも取れますから、小さな企業が特定派遣で人材を送り込んだものの、
すぐに倒産してしまい、働いていた派遣社員の給料すらきちんと払われない、という事も多数出てきてしまったのです。
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さらに許可が厳しくなった一般派遣
もともと派遣は法律で定める専門26業務に認められていました。
主に特定の技術を持った仕事に就く人たちで、手に職、腕に覚えがある職種、つまり職人さんですね。
プログラマーや、テレビのディレクターもその中に入っていました。
現にメジャーな番組制作を渡り歩いている有能なディレクターさんがかつては数多くいました。
技術があるから仕事はいくらでもあるのです。
今は人手が足りないので、番組が終わっても、有能なディレクターさんをテレビ局がなかなか手放しません。だから同じ局にいる人が多くなってきていますね。
ところがひと頃、派遣切りという言葉が横行したために、派遣という働き方に悪いイメージを持つ人がとても増えてしまいました。
でも実際には、自由な働き方ができるという点で、最近はまた見直されてきています。
そして専門26業種に限らず、派遣で働けるようにということで、26業務も撤廃されました。
ただ、これにより、派遣で働く職種が増えるため、特定派遣で横行したような、事態にならないようしなければなりません。
だから、特定派遣をなくし、一般派遣の条件をとても厳しくしてきたのだと思います。
どういう風に厳しいかというと、会社の経営が危なくないか、資産状況に余裕があるか、ということが調べられるということです。
万が一会社に何かがあっても未払い給与などが発生しないような資金、資産状況でなければならないんですね。
だから現預金も常にそれを保証できるくらい保持していなければなりません。
これが中小企業にとってはかなり厳しい壁になっていますがこれはとりもなおさず、派遣で働く人を守るためなんですね。
欧米に比べると、日本はとても社員を保護している国だと常々思います。
諸外国には奴隷制度というものがありましたが、日本には古来からそれは存在しませんし
いろいろ問題はありますが、諸外国に比べると日本は労働者を大切にしている国ではないかという気がします。
余談ですが、仁徳天皇は「民のかまどは賑わいにけり」といいました。民が潤っているのが国の繁栄だということです。
そんな精神が今も続いているのかどうかはわかりませんが、こんな考えが全く無い国もたくさんあるのも事実なんですね。
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特定から一般に切り替えるか、それとも
現在特定派遣だけを持っている派遣会社、または制作会社は
平成30年の秋までに以下のいずれかの方法を取らなければならないでしょう。
- 一般派遣の資格が取れるよう財務状況を向上させるか
- 派遣自体ををやめるか
- 派遣社員を一般派遣を持っている会社に移動させるか。
もし、財務的になんら問題がないのであれば特定から一般派遣を取るようにすれば良いだけでしょう。
一般派遣も取れるけど、費用もかかるし、書類審査も面倒だから特定だけにしておいた、という会社であれば一般派遣の資格を取得すれば済みます。
もし特定から一般に変えるのが難しい財務状況であれば、頑張って、可能なまで財務状況をよくするしかありません。
それにはまず第一に売り上げを向上させることですが、短い期間でそれをするのがなかなか難しいものです。
その場合は、資本をどこからか調達して特定から一般に変えられるような財務状況にするのがてっとり早い方法でしょう。
社長自ら、資本を入れるのか、他にそういう資本を出してくれる人や会社を探すかでしょうか。
もし会社の業態として、番組の自社制作が主で、派遣が占める割合が少ないのであれば、派遣を止めるというのも選択の一つでしょう。
自社での番組制作の仕事を増やして、派遣に行っていた社員には戻ってきてもらい、自社で働いてもらうようにするということです。
派遣社員を全て自社で受け入れる事が難しいのであれば、仕方がないので、その人たちには他の派遣会社に移ってもらうという3番目の方法もあります。
これ以外に、経営者ならM&Aという事も考えるかもしれません。
ところが他の業種と異なり、派遣においてはM&Aというのはなかなか難しいものがあります。
似たような業態の会社が他にいろいろあるため、社員だけ移動すれば済んでしまう話になってしまうでからす。
つまり会社の組織丸ごと受け入れてくださいと言ってもなかなかうまくいかないケースが多いんですね。
何れにしても平成30年の秋までに形が変わっていく会社はあると思います。
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では今日はこのあたりで。
