テレビ業界の裏話

テレビの「やらせ」とはどういうことを指すの?

わたしたちは、ことばの意味をよくわからないまま使っていることがあります。

他愛のない会話のなかでテレビ番組について話題にすることがよくありますが、相手から「テレビってやらせばっかりだよね」と言われることがあります。

その「やらせ」って、何を指してるの?

と聞きますと、しどろもどろに。

やらせの事実も把握していないし、やらせがどういうことかもわからないまま、印象を話してしまったようです。

では、やらせ、ってどういうことを指すのか説明しましょう。

普段、やっていないことをやってもらうこと

やらせ、とは、番組がお願いして、普段していないことを撮影のためにやってもらうこと。

例えば、バラエティ番組で、大食いにチャレンジするコーナーがありますよね。

巨大なすり鉢に5人前のラーメンとチャーシューが20枚、野菜炒めがてんこ盛り、総重量3キロの巨大ラーメンを何分で食べきれる?

1升のチキンライスに鶏のから揚げが10個、ハンバーグ5個、フライドポテトに目玉焼きがのっているプレート、1時間以内に完食できるか?

こうした特殊なメニューについて、もし、何も触れずに大食いマスターやタレントがチャレンジしていたら、視聴者にこのお店では巨大なメニューが提供されているのかな、と思われても仕方がありません。

さらに、チャレンジしている人が、途中で食べられなくなった。

でも、番組上は完食したことにしたくて、途中でカメラを止めて料理を減らし最後まで食べきるシーンを撮影した。

つまり、店では普段、チャレンジメニューを出しておらず、しかも、大食いチャレンジ中に料理を減らして完食シーンを放送した、としたら…

これは歴然とした「やらせ」になります。

バラエティ番組とはいえ、これは放送することはできません。

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放送するならクリアにするべきこと

放送するのであれば、ナレーションやテロップで、「お店に協力していただいて、チャレンジメニューを作ってもらった」と番組の中で説明すること。

そして、チャレンジャーも、途中でギブアップした、とチャレンジに失敗したことをありのまま伝えれば、放送することができます。

普段やっていないことをお店に頼んでやってもらう場合は、そのように説明すればいいし、過程をそのまま撮影して、ありのままの結果を放送すれば、何ら問題にはなりません。

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捏造はぜったい、ダメ

お店には、普段やっていないことをやってもらい、チャレンジャーには本来とは違う結果にしてもらうわけですから、事実を曲げて放送している、つまり、捏造している、となります。

これは、放送では最もやってはダメなこと、なのです。

では、次のようなことはどうなのでしょうか?

再現はどうなの?

スタッフがチャレンジメニューを出しているお店を探してきて、過去にそのメニューにチャレンジに成功した人に、番組のために再チャレンジしてもらった。

番組のなかでは、チャレンジャーの紹介として、過去にチャレンジして成功した〇〇さんに再チャレンジしてもらった、とナレーションを入れた。

しかし、今回のチャレンジはいまいち体調が万全ではなく、完食できなかった。

過去に成功した、という事実があるので、今回も成功したということにした。

この場合も、やらせになります。

成功したのは、過去のことであり、今回は失敗しています。

放送する際に、成功したシーンも使いたいなら、映像の色調をかえて、テロップで「本人による再現」と入れれば、視聴者にこの映像は過去の出来事を再現しているんだな、とわかりますから、放送することができます。

そして、今回は途中でチャレンジを断念した。と、結果をそのまま伝えれば、問題はありません。

たまたま、撮影時がいつもと違う状況に…

新鮮な魚介が売りの居酒屋さん。

朝どれの魚介がその日の夜にはいただけるのが人気。

しかし、撮影の日は、年に数度あるかないかの時化(しけ)で、全く魚が取れず、冷蔵しておいた昨日の魚介を使用した。

店の方からも、うちは朝どれがウリなので、今朝、捕れた魚だと言ってほしい、と言われたため、映像に映っているのは昨日の魚だが、ナレーションでは「今朝捕れた魚」と入れた。

店舗側も、不測の事態であり、いつもは朝どれの魚を使っているのに、撮影の日に限って朝、捕れなかったと説明があった。

100日のうち99日は捕れるのに、撮影の日がまれに捕れない1日とぶつかってしまった。

昨日捕れた魚を使っていると放送されたら、お店側はそれがダメージになる、と心配されたのでしょう。

お店側もそう言っているし、わざわざ昨日の魚だと説明するのは、視聴者に誤解を招くのではないか、と判断して、昨日の魚を朝どれの魚として放送したのです。

これも、ダメです。

朝どれの魚とナレーションするのなら、映像はその日の朝とれた魚でなければなりません。

もし、捕れなかったら、その日は撮影をキャンセルにして、別日に撮影をリスケジュールするか、ナレーションで、この日はたまたま時化でとれなかったため、前日捕れた魚を出していただきました、とナレーションするべきなのです。

常連さんに来てもらうのは…

人気の洋食店の取材で、お客さんのインタビューを取りたい。

しかし、撮影のときにインタビューに答えてくれるお客さんが見つからなかったため、お店が常連さんに連絡をして来てもらった。

常連さんは週に2日は通っていて、快くインタビューに答えてくれた。

これは、普段から通っているお客さんに、お店から声をかけてもらって、きてもらい、撮影に協力してもらった、ということになります。

店に通っているお客ですから、そこに嘘はありません。

この場合は、判断に迷うグレーゾーン。

ナレーションで、「常連さんに来てもらった」と入れればOKとするバラエティ番組があるかと思います。

しかし、ドキュメンタリー寄りの番組であれば、これはダメです。

なぜなら、常連さんはその日、来ていないのが事実です。

お店に呼ばれてわざわざきていること、お店にテレビ番組の取材が入っていると知っているからです。

取材と知っていてやってくると、お店のためにプラスになるようなことを言ってあげよう、という意識が働きます。

ましてや、お店は、わざわざ来てもらったから今日のお代は無料です、くらいのお礼はするでしょう。

そこには、無言の「タダにするからいいこと言ってね」「ごちそうになるからいいこと言っておいたよ」という利害関係が生じている、かもしれません。

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テレビは誤解を与えてはいけないメディア

テレビは視聴者に誤解を与えてはいけないメディアです。

嘘や偽り、誤りは許されません。

番組のためにやってもらったり、わざわざ商品開発をしてもらったり、かつてやっていたことを再開してもらうことだってあります。

そのときは、番組のなかで説明するのが鉄則なのです。

テレビは信用されるメディアでなくてはならないのです。

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