まだ駆け出しのAD(アシスタント・ディレクター)だったころ
あるバラエティ番組で、お笑いタレントに、アメリカンコミック原作
アメリカ映画のコスプレをしてもらうことになった。
予算たったの3000円!しかも7人分
○○マン、キャプテン○○・・といったヒーローもののコスプレ、
しかも7人分だ。
期間も短かったが、予算がたったの3000円!
さすがローカル番組だと思った。
スーパーの廃材をかき集め、
どうしても買わなければいけないものは100円ショップで買った。
メインは段ボール。
洋服だからタレントさんの採寸もして身体に合ったものにしなくてはならない。
色付けもしてそれらしく見せなければならない。
だからそれは大変な作業だった。
ドーランを買うお金がなかったので絵具で代用。
弓矢を再現するために竹と輪ゴム。 大きなハンマーは新聞紙を丸めて作った。
小・中学校と図工の評価が最低だった私にとってこれほど苦手な作業はない。
苦労の甲斐あって、できた段ボールの衣装は自分としては最高の出来栄えだった。
とても廃材で作ったとは思えない。
出来上がったコスプレ衣装をタレントさんに着てもらい、さあ、どうですか、と
自信満々に見せたら・・・
大受けだった。
皆、腹を抱えて笑っている。
これはいい!!受ける!
こんなダサいのは見たことがない
結果としては大反響だった。
映画の配給会社さんも大爆笑であった。
ただ、当時自分としてはまじめに最高の出来だと思っていたので、
笑いを取ったのは実は意外だったのだ。
というか本心は微妙だ。
でも、かっこいいだけがいいんじゃないとわかったのもこの時だった。
この段ボールのヒーローは大いに受けて、
その後パート2もやることになった。
そしてその時は本物そっくりのちゃんとした衣装が届いたから、
正真正銘かっこよかった。
どちらがいいのかわからないが、3000円の手作りコスプレ衣装が、本物の衣装を導いたことは間違いない。
だから大変だったが、僕にとっては貴重で楽しい経験だ。
しかしこの出来事で唯一ショックな出来事と言えば、大喜びしたテレビ局の営業・配給会社共に
ディレクターを褒め称え、
作った私には賞賛の言葉は何もなかったことだ。
当時はそのことに苛立ち、心の底から
「この衣装は私が作ったんだぞ!!」
と叫びたかったがそんなこと思ったところで仕方がない。
私には次のロケの仕込みが待っている。
そのような理不尽な出来事はテレビの現場では多々ある。
バラエティ番組では特に多いような気がした。
アシスタントディレクターの仕事は本当に多種多様だ。
2つ日間徹夜で何千というありえない数のペットボトルにドリルで穴をあけたこともある。
ときには正気とは思えない危険と隣あわせの実験台になったときもある。
こういったつらい経験。特にこの世界では「3Kと言われる 帰れない・汚い・キツイ」
というものがあるが、それを乗り越えられたとき「真のテレビ屋」になれると私は思う。
常に熱い信念とガッツがあれば耐えられるはず。
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(北海道 情報ディレクター)