【ミュージック・ビデオ】:
ミュージック・ビデオ(英: Music video)は、主にポピュラー音楽のミュージシャン、グループ等の楽曲に合わせて制作される映像作品。CDの販売促進や宣伝を目的として制作される事が多いが、MTV等によって普及して以降は映像作品としての評価も求められている。日本では、プロモーション・ビデオ、PV、ビデオ・クリップ、クリップと称される事も多い。(ウィキペディアより)
今年、とあるアーティストのミュージック・ビデオ(以下、MV)が
動画投稿サイトYouTubeにアップロードされ、
その再生回数は短期間のうちに何と1000万回を突破しました。
10万回再生されれば十分ヒットしたと言えるインターネット動画の世界で、これは大大大ヒットと言わざるを得ません。
そのMVのタイトルは、何とそのまま『MUSIC VIDEO』。
岡崎体育さんというソロ男性アーティストの楽曲の宣伝のためにつくられた
ビデオ・クリップです。
短くてとても見やすいので、まずは一度ご覧ください。
岡崎体育『MUSIC VIDEO』MV(監督:寿司くん)
(https://okazakitaiiku.com/profilesより)
https://www.youtube.com/watch?v=fTwAz1JC4yI
「MUSIC VIDEO」についての『MUSIC VIDEO』
もうお分かりかと思いますが、これはMVについてのMVなんですね。
作品のなかで「作品それ自体」について言及した、いわゆる「メタ的」な
構造を持っています。
MVについて、先にウィキペディアからの引用を載せましたが、
そんなものを読むまでもなく、
このMVを観た人に「MVとは何か」を一発で分からせてしまうところが、
すごいです。
それも、片時も退屈させずに。
MVは、「映像」というカテゴリーのなかでも比較的制作期間が短くて済み、
予算がかからず、
アップロードも簡単にできるため、
日本だけでも毎日何百、いやもしかしたら何千という作品が公開されています。
受け取り手も、スマホを使っていつ・どこででも、無料で観れてしまうので、
次から次にそれを「消費」していきます。
すると当然、
つくり手側には手法のマンネリ化が、
受け取り手側には飽きが生じてきます。
カメラ目線で歩きながら歌う 急に横からメンバーでてくる
突然カメラを手で隠して 次のカットで場所移動している
倍速になって スローになって コマ撮りになっていく
モノクロの映像 淡い映像 わざとザラついた映像
無意味に分身するよね
(『MUSIC VIDEO』岡崎体育)
その「閉塞感」を打ち破ったのが、つくり手側も受け取り手側も思わずニヤリとしてしまうような「あるある」ネタでMVを相対化した『MUSIC VIDEO』でした。
MVが好きで好きで仕方ないけれど、どこかでウンザリしてきてもいる。
でもやっぱり好き。
クリエイション クリエイション クリエイション 音楽と
クリエイション クリエイション クリエイション 映像が
毎回 絡まり合い 手を取り合い ドンピシャのタイミングでパン
「はいカットが聞こえるような」
揺るぎなき制作意欲は作り手の願い
狂いなき眼差しは受け取り手の想い
1億人に届け MUSIC VIDEO
(『MUSIC VIDEO』岡崎体育)
それは、他でもない岡崎体育さん自身の思いだったのだと思います。
MVを茶化し、「メタ認知」することで距離を置いているように見えるけど、
その実愛に溢れてもいる。
それが、この動画のヒットの要因のひとつかもしれません。
「気持ちいい」にご用心
そもそも私たちはなぜ、MVが好きなのでしょうか?
実は私も、仕事でよくMVをつくって欲しいと頼まれることがあります。
本業は映画ですが、MVをつくるのも楽しいので大好きです。
先にも述べたように、
MVが比較的短期間で予算をかけずにつくることができるのに対して、
映画はやはりつくるのに時間とお金がかかります。
なので、最初の頃、私にとって質のいいMVをつくるということは即ち「映画のようなMV」をつくることでもありました。
「映画のよう」ではあるけど、いかに時間とお金をかけずにやれるか。
そこで工夫を凝らして勝負していく。
ところが、クライアントから何度か言われたのは、
「もっとMVっぽくして欲しい」
ということでした。
「MVっぽい」とは一体どういうことなのか、
その時は分かるような分からないような、、、という感じでしたが、
今なら岡崎体育さんの楽曲『MUSIC VIDEO』が教えてくれます。
オシャレな夜の街映しとけ 光も適当にボカしとけ
意味深に果物持っとけ そしてケーキを顔面にぶつけとけ
気に入っている歌詞を画面いっぱいに貼り付けて感受性揺さぶれ
ビンタされとけ 交差点立っとけ オフショットの笑顔が素敵
(『MUSIC VIDEO』岡崎体育)
これらの要素を、楽曲のテンポに合わせて「ドンピシャのタイミング」で編集していけば、なるほど、確かに「MVっぽい」MVの完成です。
「音楽と映像が絡まり合う」そのMVは、
多少〝物語〟のつじつまが合っていなかったり、曖昧だったりしても、
勢いだけで受け取り手の −− もしかしたら作り手の気持ちさえ、
どこかへと連れて行ってくれる。
そしてそれはとても「気持ちいいこと」のはずです。
そう、「MVっぽい」MVって「気持ちいい」んです。
でも、ちょっと待ってください。
古今東西どんな歴史を見ても、「気持ちいい」ことに溺れすぎて、
他のことを疎かにした人間には、
おそろしい「罰」が待っていましたよね。
そう、岡崎体育さんが『MUSIC VIDEO』で取り上げているような、
いかにも「MVっぽい」MVの「気持ちよさ」には、
実はちょっとした「罠」が隠されているんです。
次回、更に詳しく書いていきます。
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