今回は東京キー局の気象センターでディレクターを務めているAさんに、気象情報コーナーの制作についてインタビューしました。
いわゆる、私たちがよく目にしているお天気コーナーですね。
日常生活に欠かせない気象情報の舞台裏を教えてくれました。
なるほど!と思う話がいっぱいです。
ここからはAさんのお話をお読みください。
人間、人間していたテレビの現場

大学を卒業して、1年弱ほどいろんなバイトをしてから今のお天気コーナーでのテレビの仕事に就きました。
漠然とマスコミに行きたいと考えて就活していたんですが、その頃はいわゆる氷河期だったので、すぐに決めないで、ちょっと様子を見ようと思っていました。
働き始めた頃、「テレビの仕事って、思ったよりローテクだな」と思ったことを覚えています。
人がかかわる、人の手による作業が多いなあ、と。
もっと機械的なんじゃないかと想像していたんですけど、普通の会社と一緒だなと感じる部分がわりとありました。
ディレクターやカメラマンさんを立てるとか、ちゃんと挨拶をするとか。
意外と人間、人間してるなあ、と思いました。
人間味を求められるのがテレビでの仕事なのかもしれません。
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1回ごとに見せ方を変えるお天気コーナー
気象センターでの仕事は10年くらいです。
基本的に気象情報は生放送です。朝から晩まで、すべての番組にお天気のコーナーが入っていますから、ひっきりなしですね。
予報士さんに原稿を書いてもらって、その都度お天気コーナーのオンエアの準備をします。
キューシート(時間と段取りが書かれた進行表)を作り、原稿を添削し、画面のデータをチェックして、スーパー(テロップ)を発注する。テロップを打ってくれる専門の人がいるんです。
ボタンを押すと順番にテロップが出てくるシステムになっているんですが、
その順番を間違えないようにするというのも、当然ですがすごく大事ですね。
お天気コーナーは各生放送の番組内に、数回入ります。
たとえば、3時間のワイド番組に、1時間ごとに1回、計3回お天気コーナーが入るとします。
3回とも、お天気コーナーの情報内容は同じでも、1回ごとに見せ方を変えます。
基本的な情報のほかに、いわゆる季節ネタ、冬至が近かったらゆず湯とか、初夏だったら衣替えとか、を考えておきます。
年末が近づいてイルミネーションのライトアップが始まったら、カメラさんに撮影のスケジュールを伝えます。それを踏まえて、ディレクターやADと打ち合わせてメニューを決めます。
その中にスーパーの手配だったり、CG加工が必要ならグラフィックの人に発注したりという作業があります。
番組ごとに統括するオンエアディレクターがいるので、その人に今日のお天気を伝えて打ち合わせをしたり、リハーサルもします。
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お天気コーナー撮影時の留意点

お天気コーナーで流す季節の風景を撮るために、撮影にも行きます。撮影に大事なのは、タイミングですね。
イルミネーションだったら、一部が点滅しているときと、全部が一斉につく瞬間がありますが、一斉に点灯する瞬間を逃しません。
通りすがりに「きれいだな」って見て、ちょっと立ち止まってまた歩く、みたいな感じで見ている人が多いとすれば、全部が点灯する一瞬はすべての人が見られるわけではないですから、やはりきちんと撮りたいんです。
テレビだと手軽に見られるので、ああ、全部点灯したらこんな風なんだなって、そこをいつも通る人にも思ってもらえる。共有できますよね。
近いところだけでなく遠いところにも行きますよ。
工芸品の作業、農産物の収穫の様子などを撮りに行くこともあります。
撮影したものを持って帰って来て、編集しているときに、
「寄り(近寄った映像)」をもっと撮っておけばよかった、と思うことがあります。
たとえば、職人さんが何かを作っている場面だったら、
おそらく一般の人は、作っている人の顔、手元、背景、全部入れようとすると思うんですが、
テレビは30秒、40秒という尺で映すわけです。
同じ画面だけを延々映していては飽きられてしまいます。
撮影前には必ず、どんな材料を使ってどういう工程で作られるのか、どんな歴史があるかなど、下調べをして、たたき台の原稿を作ってから行きます。
その中に「一つ一つ手作業で」っていうコメントがあったら、それに合わせて手元の映像を撮ります。
「これを何百個、何千個と作ります」というコメントには、職人さんの表情の映像を合わせます。
場所を説明をするときは店の外観…というように、段取りとその映像を自分なりにイメージしておきます。
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撮影で一番大事なのは…

映像を撮ることが重要というわけじゃなくて、そこまでの下調べが実は一番大事なんです。
たとえば、しめ縄づくりの作業を撮るとします。
しめ縄には白や赤の飾りが付いていますよね。その飾りが地方独特のものだったら、アップで撮ります。
そのことを知らなかったら「ただ画面に映っている飾り」になってしまいますが、
調べておくことで意味のある映像が撮れるわけです。
事前の下調べが勝負、映像の良し悪しはそこにかかっています。
面白いこと、興味を惹かれることがないと、視聴者は映像を見ないですよね。
なので「ここに注目してほしい」という要素を、映像の中に入れなければなりません。
考えていた段取りと現場の状況が違って、その場でとっさに撮り方を考えなきゃいけないこともありますが、
むしろそれも楽しいと感じたりします。
いろんな人に教えてもらってきた「どう撮るか」の選択の蓄積がありますから。
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大きいものを大きく見せるときには「比較対象になるもの」を画面の中に入れ込みます。
長いものは、斜めに撮ります。奥行きを見せると、長さが分かりますよね。
そういう知識の引き出しはあります。
テレビは、インターネットで得られるもの以上の何かを提供しなきゃと思うんです。
予報士さんに対する安心感や、この人の喋り方や雰囲気いいな、という印象、そこから生まれる信頼を生かしてお天気コーナーを作っていかなきゃ、と。
お天気コーナーはどの局のどの番組にもあって、やってることは正直変わらないんですよね。
だからこそ「人」と「局の特徴」を、お天気コーナーの「見せ方」で打ち出したいと思っています。
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インタビューを終えて
どんな質問にも明晰に答えてくれたAさん。
クールな外見と温かく穏やかな雰囲気のギャップがとても魅力的でした。
春夏秋冬、朝昼晩、季節や時間に合わせていろいろな工夫をされてお天気コーナーが作られていることが分かり、
今まで以上に興味を持ってお天気コーナーを見ることができそうです(ライター・K)
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