アシスタントディレクターって、ディレクターから怒鳴られたり、叱られたりしているイメージがあって、テレビ業界は怖い人が多い世界って思われているのですが、実際は四六時中叱られる、わけではありません。
10年前20年前に比べると、ずいぶん減りました。怒っている人が多いイメージが定着しているんですね。
いままで様々な番組の現場をみてきましたが、理由もなく叱られるところは一つもありません。叱られる原因は、大きく3つに絞られます。今回は、どんなことで叱られるのか、その原因と対処法について書いてみましょう。
指示されたことがこなせていない
新人ADさんの仕事は先輩から指示されるのですが、先輩が想定した結果を出せなかったときに叱られます。例えば、どんなシーンかを書いてみますと…
- 飲食店のコロナ対策について、インタビューさせてもらえる飲食店を探して、と言われ、報告する時間がきたので「見つけられませんでした」と言ったら、叱られた。
- 結婚発表した女優の過去映像をライブラリ―で探してきて、と言われ、リストアップしてきた映像が全て二次使用不可の注意書きがあり、使えない映像をリストにしてどうする、使える映像を探してこい!と叱られた。
- データをフリップで出すから原稿を作成して、と言われたが、作成に時間がかかりすぎてしまい、結局、先輩が原稿を書くことになって叱られた。
- 申請書に必要なプロデューサーのサインと印鑑をもらってきてと言われたが、プロデューサーが離席しており、そのまま持ち帰ったら、先輩から「何時に貰えるの?」と聞かれ、答えられずに叱られた。
- 小道具の買い出しに行ったが、色やサイズ違いで多種類あり、選ぶことができずに何パターンか購入したら、こんなにたくさんいらない。買いすぎ!と叱られた。
- 撮影に行ったら、取材先から「撮影、今日でしたっけ?担当者、出かけてますが・・・」と言われて、ディレクターから「ちゃんと取材日程を伝えていなかったのか?」と叱られた。
- 収録したSDカードをハードディスクに保存する作業を頼まれたが、SDカードの映像を消去してしまい、叱られた。
現役ADさん、ディレクター諸氏、身に覚えのある失敗と叱責かと思います。
①〜③のシチュエーションは、ADさん本人は頑張っているものの、時間オーバーで叱られています。
もう少し時間があればできたのに…とADさんは悔しい思いも残るかもしれません。しかし、テレビは放送の時間が決まっているので、ひとつひとつの工程で時間オーバーになったら、放送に間に合いません。
本人の頑張りが実を結ばないこともあるし、そもそも経験不足のため要領が悪いこともあります。間に合いそうもないときは、先輩や同僚に「間に合わない、助けてほしい、教えてほしい、手伝ってほしい」と自分からヘルプを求めなくてはなりません。
④、⑤は、突発的なことに対応できていないことで叱られています。相手が不在だったり、目的のものが分からない、というときは、頼んできた先輩にその場で確認をとったり、近くにいる人に相談したり、と手立てがなにかしらあるはず。それをせずして、戻ってくるのは時間や費用のロス。
⑥は、単純な連絡ミス。取材先への連絡は、基本的にADの仕事です。伝えたはずなのに伝わっていない、ということもありますが、それは自分の伝え方がまずかった、ということ。伝えた、伝えていない。言った、言わない。っていうことは多々起こりがちです。
例えば、ロケの1週間前にスケジュールの連絡を入れて、ロケ当日まで連絡しなければ、相手は忘れてしまうかもしれません。
ADさんが「伝えたのに」と言いたい気持ちもわかります。
ロケの連絡は、3日前に「予定通り伺います」前日に「明日は〇時に伺います。よろしくお願いします」と、最初の連絡から時間をおく時は、こまめに連絡しておくことで連絡漏れがなくなります。人は忘れっぽい生き物なのだと心しておきましょう。
⑦は、冷や汗ものの大失敗。これは叱られても仕方がないこと。ディレクターやプロデューサーがADのころは、上司から「収録テープは命より大事!」と言われて育った経験があるかもしれません。制作チームにとって一番たいせつなものが収録テープなのです。が、やってしまったことはなかったことにできません。隠し立てしないで、非を認め、すぐに謝罪することでリカバーできる可能性が高いもの。
収録メディアがデジタル化されてよかった点のひとつは、消去しても元に戻る可能性がある、ということ。自分でなんとかしようと、いろいろといじってしまっては取返しがつかなくなることも。ちなみに、命よりも大事なもの、なんてありませんから。
これらの失敗は、分からないことや迷うことがあれば先輩や周囲の人に相談すること、自分に非があるなら即、謝ることで叱られずに済みます。
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頼みごとがあるときに限って、その場にいない
買い出しや昼食から戻ってきたとたんに、先輩やディレクターから「どこに行ってたんだ!」と叱られた。
これもまた、よくあります。仕事で買い出しに行っていただけなのに…。食事くらいとらせてほしい…。っていう心の声が聞こえてきそうです。
ほとんどのテレビ番組の制作チームは、ディレクターひとりアシスタントディレクターひとり、とペアになっている、というところが少ないのですね。たいていは、ディレクターの方が多く、極端なところではディレクター5人にアシスタントディレクターがひとり、という現場もあるほど。そうしたアンバランスで、ピリついたアクシデントを引き起こすことがあります。
あるディレクターの指示で買い物に出ている間に、別のディレクターから緊急の用事がはいった、ということがままあります。それぞれのディレクターの急ぎの要件が重なることはザラにあります。
こういうときは、もう、事故にあったようなもの、と割り切ること。ディレクターたちも余裕があれば、仕事で出かけていることが分かるシチュエーションですが、切羽詰まった状況が運悪く重なってしまったがゆえの事故ですから、だれも悪くないのです。なので、こういうときは、とっとと謝って気持ちを切り替えるしかありません。「でも…」と言いたい気持ち、わかりますが、個々の気持ちよりも、差し迫った放送や締め切りの方が大事なのです。
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同じ失敗を繰り返す
叱られるシチュエーションをいろいろ書いてきましたが、初めてのしくじりで怒鳴られる、叱られることはほとんどありません。誰だって、最初はどこに何があるのかわかりませんし、自分に割り当てられている仕事の内容も把握できていません。
取材先を探したり、使用できる映像を探すのは、高度なテクニックや経験が必要です。一回目の失敗では、先輩も丁寧に教えてくれます。ただ、同じ失敗が三回目ともなると、教える方の声も大きくなってきますし、何回同じ説明をさせるんだ、という気持ちになってきます。
同じ失敗を繰り返してしまうのは、先輩が教えてくれたことをメモしていないため、覚えていないというのが原因その一。
その二は、ADさんの行動のクセや思考のクセ、自身の性格が原因のこともあります。失敗したら、その失敗の原因は何か、失敗しないためにどう対策すればいいか、を振り返ってみることで、自分の成長にもつながります。
アシスタントディレクター時代の失敗は、ディレクターやプロデューサーみんなが経験しています。怒られたり怒鳴られたりの経験は、あとで振り返ってみれば、そんなに大したことではなく、今となっては懐かしい思い出になったり、酒席で盛り上がる鉄板ネタへ昇華されることだってあるのです。
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