今回は、キー局で夜のニュース・報道番組を担当しているディレクターの中村さんにインタビューしました。
物腰柔らかく、穏やかな表情が印象的です。
AD時代のこと、ADとディレクターの違いなどについてお伺いしました。
ここからは中村さんのお話です。
ADの仕事も放送に直結している
この仕事を始める前は、映像にかかわる技術の営業をしていました。
でも、制作のほうが自分に合っているのではと思い、2003年にこの仕事に就きました。
報道番組を担当することになったのですが、報道は自分からは一番遠いジャンルだと感じていました。
ある日面接をして、違和感を覚える暇もないまま、現場に連れていかれたというか。
でも意外と面白かった。自分にもやれることがあると思いました。
新米ADだったころから感じていたのは、自分がやっている仕事が、そのまま放送に結びついているということです。
ADはいわゆる「下準備」だけなのかと思っていたのですが、たとえば取材映像が流れるとき、自分が選んだ箇所や取材先が放送されたりするんです。
自分のした作業がオンエアに直結しているんだという、驚きと喜びの両方がありました。
責任があると思うのと同時に、自分の仕事が社内だけで完結するのではなく、ちょっとカッコいい言い方になってしまいますが
視聴者と向き合っている、直結していると思えるのです。
視聴者に向けて原稿を書いたり、編集する作業をしているという実感がありました。
手ごたえを感じながら仕事をしていました。
ADとディレクターの違い
ADからディレクターになって何が違ったかというと…
これ、仲間内でもよく言うんですが、基本的には違わないんですよね。
「貢献する方法」「かかわっている部分」が違うだけなのではないかと思います。
ADの最初の主な仕事は、キャプションどり(記者会見など、取材した映像の中の音声を文字に起こすこと)と、
素材集め(編集に必要な資料映像などを集めること)です。
集めた映像がつまらなければ放送もつまらなくなってしまうし、いい映像を持ってくれば華やかなVTRになる。
そういう作業もオンエアにつながっているわけです。キャプションどりしたもの(文字起こししたもの)は、原稿を書くディレクターに渡すんですが、
そのときにただ渡すんじゃなく、大事だと思ったところに印をつけます。
ただ文字起こししただけの、長い文章を読むのは、時間もかかるし大変ですが、
ADが「ここが面白い部分だと思う」ということを提示すると、ディレクターもすばやく内容が把握できて効率的に作業できますし、
肝心な部分を見落とさないで済む。
ディレクターはそれをもとに原稿を書くので、ADの選んだところが放送に結びつくこともあるわけです。
最初のうちは勘所が悪くて、そこじゃないだろ、ってところを選んじゃうADもいますけどね。
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ディレクターの責任とは
ディレクターになると、キャスターなど出演者と接することが格段に増えます。
そこはADのときと、大きく違うところかもしれません。ディレクターは、出演者と2人で取材に出ることも多いです。
取材に出ると、当然ですが「内容を把握する力」が求められるので、記者と同じくらいの知識と情報を持って臨まないといけません。
下準備が大事ですね。ロケハンのときにも知識は必要になります。
ハワイとか、沖縄とか、いろんなところに取材に行きました。
戦争の傷跡の残る場所や、被災地にも行きました。事件の取材で地方に行くこともあります。
ディレクター、記者、カメラ、音声の4人で取材に行くことが多いです。
誰に取材をし、どんなことを聞くかを決めるのは、ディレクターです。
キャスターの方とは、事前にやり取りをしてしっかりと準備をしていますので、生放送の当日、慌てるということはありません。
毎日いろんなニュースが飛び込んでくるので、勉強は欠かせないですね。
専門家に電話をして教えてもらったりもします。
僕が担当している番組の特徴でもあるんですが、10代の人にも分かる説明を心がけています。
年齢や立場などの違いで、自分の生活や日常にはあまり関係がないと思われるニュースがあっても、
きちんと理解したうえで分かりやすく伝えることが必要になってきます。
実は大学時代は、学校の先生になりたいと思っていたんです。
自分が今している仕事は「授業に向けた準備」に近いなと思うことがあります。
自分が書いた原稿を出演者が読む、というのは、言われてみるとすごいことですが、
公民や政治経済、そんな分野の授業をしているのに似ているかなとも思います。授業でやったことを生徒が覚えてくれたら嬉しいと思うのと同じように、
視聴者が番組を見て、「あ、これこの間テレビでやってたことだ」と思ってくれると嬉しいですね。
SNSで、番組について書かれているのを見るとやっぱり口元が緩みます。
届いている、という実感を得られると、モチベーションがあがります。
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目指している番組
最近テレビが面白くないと言われることについては…
たぶん僕らが子供の頃のテレビって、一番「なんでもアリ」の時代だったと思うんですよ。作り手側がムチャできたというか。
その頃から比べると、
いち視聴者の立場で言うと、確かにおとなしくなったなという気はします。
抑え気味になっているのかなと。
正直、仕方ない面もあると思います。
信頼という点で言うと、何かミスがあったときは、やはり信頼の問題につながってきてしまいますが、すごいスピートで作業をしているので、どの番組でもすべてのミスをなくすのは不可能です。
スピードを言い訳にしてはいけないと思いますし、続けば信頼を失う。
だからこそ、今自分がやっているコーナーみたいに、事前に準備ができる仕事に関しては、万全を期してミスを出さないぞという気持ちでやっています。
ADから始めて、わりとすぐディレクターになったんですが、10年同じコーナーをやっていて、訂正を出したのは、全体で2回くらいしかないです。
2回でもミスはミスですけど、相当少ないのではないかと思います。
キャスターが背負っている責任というのもあるし、そこでつまづいてしまったら、分かりやすいも何もないですから。
ディレクターとして、自分が目指している「番組像」は真面目なことを知的に面白がれる、シニカルなテイストも込められる、そんな報道番組です。
笑いって、ニュースとは対極的なところにある感じがしますが、必ずしもそうではないと思います。
もちろん、内容によりますが。
大きなニュースのときは、NHKを見る人が多いですよね。
そういう現実の中で、いかに見てもらえるかというところが課題なのかなと思います。
今までやってきたことに対する自負もあるので、
これからも視聴者に頼りにしてもらえる番組を作っていきたいと思っています。