弊社ライズプランニングはテレビ局出向型の番組制作会社です。
主に情報・報道番組の制作に携わっています。
ディレクター目線で、とある番組を見ていて、ナレーションで気になる表現がありました。
ナレーション原稿で気になる「いろいろ」
その表現があったのは、オープンしたてのグリル料理の店の紹介でのナレーションでした。
その店のシェフについてのナレーションのところで、
「いろいろな店で修業した一流の料理人」
というナレーションが入っていたのです。
たったの1行、秒数で6秒くらいのわずかなものですが、
ナレーション原稿では「いろいろ」という言葉はNGワードのようなもので、なかなか使われないんですよね。
テレビナレーションで使われない言葉
具体性のない「いろいろ」
まず「いろいろな」という言葉は、ナレーションでは、使いたがらないことばです。
視聴者にとっては情報がないですし、イメージもわかないから無駄になってしまう言葉なんですよね。
単に秒数を埋める、空欄を埋める、空白を埋めるだけの言葉で、
貴重な秒数をではなかなか使いたくない言葉なですよね。
もちろん、インタビューでの回答や、フリートーク、街録なんかでは、使われますし、
そこをカットするということはないのですが、ナレーションではわざわざ使いません。
オンエア前に、必ずプロデューサーはプレビューしますから、
「いろいろな」という言葉が使われていたら、
「いろいろな」とは何だ?
ナニ料理とナニ料理なのか?どんな料理店で修業していたんだ?と担当ディレクターに確認するはずです。
グリル料理の店であっても、和食の店で修業してきたとか、
イタリアン料理店にいたとか、フレンチだとか、
一言入ると視聴者は、想像が膨らみます。
ナレーターさんのなかには、日本語への造詣が深く、
表現を追求されている方も多くいらっしゃるので、
ベテランの方だと、ナレーション入れのときに「このいろいろっていうのは、ほかに言い換えられないの?」
と聞かれると思います。
「いろいろな店で修業してきたシェフが」という表現であれば、ここまで強い違和感は感じなかったろうと思うのですが、
次に、「一流の料理人」と表現しており、さらに違和感を感じました。
比較表現の「一流」
「一流の」ということばは、滅多に使われない言葉です。
おなじように滅多に使わない言葉で、
「最高の」「日本一の」「一番の」という言葉があります。
なんでかというと、必ず「その根拠は何か?」を問われるからです。
たやすく使われる言葉ではないのです。
使うからには、プロデューサーに突っ込まれる覚悟をもって挑みます。
プレビューのときに、必ず、問われます。
「その一流の根拠はなんだ?どういう経歴のシェフなんだ?」
それに回答できないと、使わせてもらえませんし、
回答できたとしても、プロデューサーが納得しないと使えません。
「いろいろな」という、おおざっぱな表現が、「一流の」という稀有なことばと並んでいることで、両方の言葉が悪目立ちし、短い1行に収まっていることで、違和感が強く残ってしまいました。
テレビナレーションの違和感の理由
かつて、ナレーションは作家が書いていました。
放送作家の一分野です。
作家が書いていた時代は、作家が自分でナレーションを書くのに必要な情報を集めることもあったし、
アシスタントディレクターやリサーチャーにリサーチをさせて、適切なナレーションを書いていました。
今は、経費削減により、ナレーションはディレクターやプロデューサーが書くようになりました。
また、常に制作スタッフが十分いるとは限らず、限られた人数で掛け持ちで作品を作らなければならない事情もありますから、違和感のあるナレーションを聞く機会も増えたように思います。
日本語の意味や「視聴者への伝わりやすさ」をしっかりと考えて制作しなくてはいけないので、国語的な勉強が必須になるのが番組制作の仕事かもしれませんね。