弊社はテレビ番組の制作会社です。
かつては、テレビ制作という仕事は憧れの的でしたが、今では、きついんでしょう?大変じゃない?休みはとれているの?と心配される仕事の筆頭にあげられます。
最近のテレビ業界はずいぶん改善されてきたなあと感じますが、現場に入ると、聞いていたのとちがうとか、追いついてない部分もあろうかと思います。
なぜなら現場のスタッフは、ずっとそういう大変な時期を過ごしてきたので、それに慣れてしまっていて
そこで身についた思考や習慣を変えるまでにはなっていないからです。
ということで今回は、大変な時期を乗り越えてきた先輩から、新人ADの心得を書いてみたいと思います。
ADの仕事にはマニュアルがない
新人ADの仕事就き、テレビの現場で働くということ。
多くの学生さんは、それまでに学校生活やアルバイトを経験してきています。
学校にもアルバイトにもルールがあり、マニュアルがあり、それらを教えてくれる指導者や担当者がいたでしょう。
ですがテレビの仕事というのはマニュアルのない世界であり、研修のない仕事です。
一番下っ端であるADは、「ADの仕事なんか見て覚えろ」の世界です。
紀伊国屋書店やジュンク堂書店に行ってもネットで探してみても、テレビの現場について書かれた本というのはあまり見つかりません。
テレビの概論が書かれた本はありますが…
誰もADの仕事やテレビスタッフの仕事について書こうとしなかった。必要とされなかった。マニュアルでできるもんじゃない。
「すぐ覚えろ」
ロケに行こうが、スタジオに行こうが、胸に初心者マークをつけて、私はADの仕事の初心者です、と行って回るわけにはいきません。
テレビの仕事にはいろんな会社が関わっているので、他社さんのスタッフからしたらAD初心者もベテランADも同じADなのです。
初日は「初めまして、●●です」とあいさつしてまわるので、周りも「がんばってね!」と返してくれるものですが
2日目ともなると、ADの仕事に対して「そういうことは常識だろう」「当然わかっているだろう」という雰囲気で周りが接してきます。
多くの新人ADは、なんでそんなに不条理に怒られるのか、教えてくれればいいのに…怒鳴られるほどのことだろうか…
とADの仕事を辞めていきます。
誰かがマニュアルを作ればいいだろうと思いつつ、現役は忙しい、現場は忙しい、と作ってこなかった世界です。
テレビの仕事を続けられる理由
就活生の面接をするときに、よく聞かれる質問の一つに
テレビの現場ってたいへんと聞きますが、どういうモチベーションで仕事を続けていけるでしょうか?
というのがあります。
これには「テレビが好きであるということ。テレビの現場が好きであることが大事。」とお答えしています。
具体的な仕事内容を踏まえてお話していきましょう。
ADの仕事のスケジュール
ロケの場合、朝7時に新宿に集合。とか
朝7時に六本木の事務所に集合。など、とても早い時間からスタートします。
なぜなら、始発で出てきて集合場所に間に合う時間が7時くらいだとみられているからです。
撮影スタッフやロケ車両さんや出演者さんの予算というのは、1日拘束でいくら、というのが習慣としてあります。
始発で出てきて、終電で帰宅する。
朝7時集合して、夜は10時に解散。
現場を解散してから、事務所に戻って片付け、技術さんだと、翌日の機材の準備があります。
車両さんだと、ガソリンを入れて、駐車場に戻さなくてはなりません。
その時間を見越して22時解散、そして、帰宅するのは終電。
ぎりぎりだと、解散が23時になることもあります。
スタジオ収録も、朝7時にスタジオ集合してスタジオ撤収終了21時、事務所にもどって片付けしたら、あっという間に終電です。
前もって、ロケのスケジュールやスタジオのスケジュールを聞かされていればまだいいほう。
ぎりぎりにロケが決まったりするし、完パケ専門の制作会社だと何本か掛け持ちせざるを得ないときもあるから、急に明日ロケね!と言われることもしょっちゅうあります。
そうなると、友達と約束ができなくなる。遊びの予定を入れることができなくなる。
誘われても行けたら行くね、という答え方をしなくてはならなくなる。
(これは友達に言われると、腹立たしく思われる回答)
ドタキャンせざるをえなくなることも。
だんだん友達から誘われなくなるかもしれない。
学生時代の友達や趣味の集まりから声をかけられなくなってくる。
それでもテレビ制作というちょっと特殊な世界に生きていけるかどうか。
自分の人生がテレビの現場に全てがかかっても満足かどうか?
仕事を通していろんなことを身に着け、学び、忙しければ忙しいほど、それは嬉しいことと思えるかどうか。
テレビの現場がかっこいいと言われたり、あのアイドルと仕事してるの?とかえ~すごいね!とかちょっと変わったことしてるんだね、と周りの人に言われて、ちょっといい気持ちになるかもしれない。
でも、そういう外からの見栄に惑わされると、実は牢屋に入っているようなものなんです。
最初は、そう言われて気持ちいいかもしれないです。
けれどだんだん、実際にやっていることなんてちっともかっこよくないし、叱られてばかりだし、朝早くから夜遅くまでだし、現実と言われていることのギャップに苦しくなってくる。
ADの仕事が何よりも好きだと言えるか、自分の人生の意義がそこにあると言えるかどうか。
ADの仕事のその先
もし自分の気持ちが川の激しい流れのような強いものであるなら、
例えば、ゆくゆくは、
ディレクターになりたい!とか、プロデューサーになりたい!とか
そういった強い気持ちがあるなら、横から吹いてくる風が厳しいものだろうが、台風だろうが、揺るぐことがないでしょう。
気持ちがあやふやだと、わずかな凪風でも、どうしようやっていけるかな、自分には合わないかも、と風に巻き込まれてしまって転覆するかもしれない。
朝から晩まで仕事。このテレビの制作の仕事というのは、それが好きだという集団です。
その集団に、自分が入っていけるかどうかなんですね。
この業界に残っている人は、テレビ現場の仕事が大好きです。
いろんな役割の人たちが集まって仕事をしていますが、それぞれの経験やアイデアややってみたいことや
使ってみたい技術を持ち寄って、
大きく膨らませて、自分でも思ってもみなかった映像世界を作り出して、視聴者におお!と思わせたいとみんなが思っています。
見てよかったと感じてもらいたい。暇つぶしに見てたつもりが、充実の時間だったと思ってもらいたい。
後ろ向きな考えだったのが、前向きになってくれたらうれしいことこの上ない。
ただ最近は、国の政策もあって長時間労働ができなくなってきています。
テレビ業界は、そういうことを取り上げるメディアだし、クリエイティブな仕事の環境を整えようとしているから、テレビ制作という仕事について、チェックは厳しくなっているんですね
テレビ制作に興味があるけれど労働条件にはどうなの?労基はどうなの?という疑問を持っている就活生の方もたくさんいるでしょう。
関連記事:テレビ業界は過酷なところなのか?
ADの仕事をしているうちは労働基準に則っている現場が増えています。
でもディレクターになったら、裁量労働制を取り入れられるんですね。
何時から何時まで会社にいるから、仕事をしているかというとそうではないんです。
会社というエリアにいても、仕事じゃない時間が結構あるわけです。
- テレビをみている
- 雑誌を読む
- ネットを見る
- 物思いにふけっている
- タバコを吸う
- コーヒーを飲む
- つい居眠りする
- ADや仲間とおしゃべりする
それらは会社にいるけど、仕事でしょうか?
厳密にいうと仕事ではありません。
けれど、ディレクターやプロデューサーは常に仕事の意識がどこかで動いています。
会社やスタッフルームにいてもいなくても、仕事の意識がどこかにあるんです。
- プライベートの時間
- デートしている時間
- 子供と遊んでいる時間
- ショッピングの時間
- スポーツの時間
- 旅行している時間
頭のどこかで、テレビのネタ探しをしています。
家族との会話や、恋人や友人とのおしゃべりで、一般大衆は何に興味があるんだろう?
どんなタレントに関心があるんだろう?と頭のどこかで、アンテナを張っているんです。
ワークライフバランスなんていう言葉がありますが、テレビ業界の場合はワークがライフでライフがワーク。
それが、このテレビ局の仕事。
企画に参加することがあまりできないADの仕事の場合はそこまでは求められませんが、でもやはり、プライベートと仕事の境界線は曖昧なところがあります。
ADの仕事は、情報番組や報道番組なら、3年から4年で一人前のディレクターとしての仕事に就くことができます。
(ドラマとか音楽番組は特殊で、何年やってもディレクターになれないこともあるけれど。)
関連記事:テレビ番組制作会社に入るなら、最初は報道か情報番組がいい理由
その期間、今日もロケか…撮影か…と憂鬱を感じなければ、一人前になれるはずです。
ADの仕事がどれくらいしたいか
就活の段階になって「自分の好きなこと」が未だにあやふやでわからないまま
それでも仕事には就かなくてはいけないから就活をしている、という人もいるでしょう。
なんとなく楽しそうでテレビ業界を選ぶのならそれは間違っています。
テレビ業界でADの仕事をし始めた時に理想と現実のギャップで苦しむことになるでしょう。
本当に好きかどうか、今一度自分に問いかけてみてください。
自分のスケジュールやプライベートを犠牲にしてもやっぱりテレビの仕事がしたいと思えるでしょうか?
もしそれでもやっぱりテレビ局でテレビ番組を作る仕事がやりたい、と思えるなら、
きっと将来とても素敵なテレビマンになれると思います。
そんな方達と一緒にテレビのお仕事ができる日を楽しみにしています。
関連記事:ADになるにはどうすればいいのか
では今日はこのあたりで。