ここ数年話題になっている働き方改革について、テレビ業界においては働き方改革はどのような影響や変化があったのかについて書いてみたいと思います。
働き方改革の背景
働き方改革という言葉から、新たに労働に関する新たな法律や条例ができたのではないかと漠然と感じている人もいるようですが、
働き方改革というのはもともとあった労働に関する8個の法律に改正を加えられることの総称を指して言います。
政策の大儀としては「一億総活躍社会の実現」という目的が掲げられていますね。
働き方改革に関連する8個の関係する法律の改正は、これまでも時代の変化に応じて適宜手が加えられてきていましたが、
今回はその改革度合いが大きいため総称して働き方改革と銘打っているようです。
日本が抱える少子高齢化社会の対策として出生率を上げ、労働生産性をあげるべく、長時間労働の解消や、多様な働き方の促進、非正規雇用の処遇の改善などが最重要課題になってきたことは周知のことだと思います。
特に20代~40代といった働く子育て世代にとって労働が過重な負担とならないような働きやすい環境を整えること、各人のニーズに合った選択ができる職場作りのために、様々な角度から改革がなされているところです。
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働き方改革・テレビ業界に特に関係する3つの法律
さて働き方改革に関連する8個の法律というのは
- 労働基準法
- 労働時間等設定改善法
- 労働者安全衛生法
- じん肺法
- 労働者派遣法
- 雇用対策法
- パートタイム労働法
- 労働契約法
ですが、今回のテーマであるテレビ業界の働き方改革で特に関係するのはこの中でも、
- 労働基準法
- 労働時間等設定改善法
- 労働者派遣法
の3項目ではないかと思います。
まず労働基準法に関していえば、年次有給休暇の確実な取得や時間外労働の上限規制について罰則を設けるという厳しい対処、フレックスタイムなどの推進による柔軟な働き方の導入が主な改正になります。
テレビ業界の現場は他社から派遣や業務委託という形で来て仕事をしている人が多数を占めています。
特に派遣形式で働く場合、仕事の指示は派遣先ですが、有給休暇の管理は派遣元会社となるため
働く社員は派遣元にだけ休暇の申請をすればよいというわけにはいかず、年次有給休暇がどうしてもとりにくい状況にありました。
また、テレビ業界ではオンエアぎりぎりになるとどうしても残業が多くなることや、事件・事故の発生等で仕事が深夜にまで及ぶこと、場合によっては徹夜になるということも少なくありませんでした。
この状況が当たり前になり、テレビ業界のスタッフたちは過重労働になり心身ともに疲労してしまったというケースも実際少なくなかったと言えます。
これらの改善のために実際に数値を明確にしているのが労働時間等設定改善法で、
時間外労働の規制をかけるために月45時間、年360時間、特別な場合についても年720時間まで、単月では100時間未満までという明確な数字も決められました。
これについてもテレビ業界ではかなり影響があったのは事実で、直接的には三六協定の時間をどうするかで局と派遣元の会社で協議がいまだに続いているところもあるのではないでしょうか。
三六協定については所属する社員の会社の時間を派遣先でも守る必要があります。
働き方改革が本格的になるまでのテレビ業界は、正直なところ派遣契約の際に三六協定の内容がしっかりと確認されていたかというと、必ずしもそうとはいいがたい状況でした。
現場のディレクターに至ってはそのような労務の知識はほとんどないという人も多かったと思います。
働き方改革では単月の最大時間外時間については最大100未満まで認めていますが、理想的には80以下が望まれるため、この部分はよく問題になるところです。
テレビ業界は不測の事件等で一時的に長時間労働になる可能性があるため、派遣先としてはできればマックスの100未満にしておいてもらいたいところなのですが、80以上の数値を出していると要注意とみられるため派遣元としては80以下に抑えたいところだからです。
とはいえ、働き方改革が言われる以前はそもそも労務管理の知識が薄く、このような話題すら上らなかったことを思うとかなりの前進だと思います。
そして3つのうち最後の労働者派遣法にかかわる働き方改革ですが、この中心となる改革が「同一労働同一賃金」です。
日本では実は非正規労働者は約4割にのぼります。
同一労働同一賃金は非正規雇用の処遇の改善を目指した改革で、これも働く世代の労働環境改善のためには必須の項目でしょう。
主に派遣先の社員と派遣元の社員の給与の差について同じ労働であれば差をなくしていこうというところです。
実際のところテレビ業界においては同じテレビの現場で働くにもかかわらずテレビ局員と外部社員の給与の格差はかなりあると言われています。
しかしながら全く同一の労働であるかどうかの判断は難しく、特に責任という目に見えない部分についてはかなり差があるのは事実なのでその判断は難しい面もあります。
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テレビ業界は変化してきている
この4、5年のテレビ業界を見ていると、その働き方は激変してきています。
ひと言でいえば3K(きつい、汚い、危険)と言われていたテレビ業界が今や非常にクリーンな業界に変貌したと言っても過言ではないと思います。
働き方改革は2019年頃から開始していますが、その少し前からテレビ業界には頻繁に労働基準監督署が入って改善命令が飛び交っていました。
それだけテレビ業界は過酷な職場になっていたということだと思います。
現在過労死認定ラインは80時間超と言われていますが、当時テレビ業界の最も過酷な現場では100,200を超える異常な現場が多々ありました。
たびたびテレビ局や主要な制作会社、派遣会社に労基署がはいることは、働き方改革の前兆ともいえる状況だったと思います。
結果徐々に時間外が少なくなっていったのは確かですし、これが無ければ今のような残業が少ない現場の実現は無理だったのではないかと感じるほどです。
時間外については現在はほとんどのテレビ業界の現場で厳しくチェックされており、三六協定の確認も怠りなく確認しています。
派遣先が単月の最長残業時間の延長を強要するようなこともありませんし、実際残業が増えないようにチェック体制が強化されています。
また最近の新型コロナの影響で、テレビ業界ではありえないと考えられていたフレックスの導入やリモートによる作業もかなり浸透してきています。
派遣労働者の処遇についても給与のアップや、交通費の優遇など可能な限り本腰を入れて対策をところが多く、これからさらに働きやすい環境になるのではないでしょうか。
傾向としてはテレビ業界が働き方改革で改善されるほど高度な人材を求められるようになっていると最近感じています。
かつては労働環境が良くないため離職者が多く、いつも人材が足りない、仕事を覚えないうちにやめてしまうという悪循環に陥っていましたが、
環境が良くなるとともに優良な人材が増えてきて、逆に入るのが難しい業界になりつつあるのを感じるとともに、テレビ業界が活性化しておもしろい番組が増えるのではないかと期待したくなります。
健全な現場が作り出す番組はその雰囲気が番組に現れると言いますから、働き方改革で働きやすくなった現場から多くの人気番組が生まれてほしいものです。
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