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テレビ番組制作でスタッフが意識している「わかりやすさ」とは

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まだ駆け出しのアシスタントディレクターだったころ、プロデューサーに、「テレビっていうのは田舎のおじいちゃんおばあちゃんがこたつで晩酌しながら見て笑えるものでなきゃいけない」と言われました。

大学を卒業して番組の作り手になったのですが、自分が知っていること、わかっていることは誰もが知っているしわかっているだろう、と思い込んでいたのかもしれません。

プロデューサーは、自分が使っていることばが誰にでもわかると思うなよ。ことばに神経つかえ、と言いたかったのでしょう。

わかっていることをそのまま伝えても、人に伝わらないんだな、と気づきました。

今回は、”わかりやすく伝える”ことの難しさについて書いてみようと思います。

テレビは、見ると同時に”わかる”もの

テレビは、新聞や雑誌、ネットよりも「わかりやすい」メディアです。

他メディアとの違いは、流動性にあります。

新聞や雑誌、ネットはテキストがベースです。

自分で読み、理解できないところは、読み返す。

読者は自分のペースで理解度に合わせて読み進めることができる、というもの。

テレビは、映像がベースです。

映像は流れているものなので、視聴者は流れにのった情報を受け取り、それと同時に理解していくことが求められます。

が、分からないからといってわざわざ巻き戻すことはしません。

リアルタイム視聴だと巻き戻すことができませんし、録画で見ていても面倒くさい。

しばらく見ていればわかる、というのは経験で知っているからです。

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テレビはどのようにしてわかりやすくしている?

テレビは映像と書きましたが、それを構成しているのは、映像とテロップと音声の3つの要素です。

映像に合わせて伝えたい情報を、テロップ(文字)で読ませて、音声で聞かせる、この3つで同時に送りだすことで、少し見ただけで情報を受け取ることができます。

制作サイドに立つと、一つのメッセージを、見てわかる、文字でわかる、聞きことばでわかる、

同時に3種類で表現しなくてはならないわけです。

3つ組み合わせてやっとわかる、のではなく、いずれか一つだけでもわかるのですが、数秒みたらわかる、にはそれほど複雑に作る必要があるのです。

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わかりやすい映像はどう作っている?

では、作り手はどのようにして作っているのでしょうか。

例えば、タレントが地方にあるバスの終点地から歩いて店を探す、という番組を例にしてみましょう。

スタッフもタレントもなんの予備知識もないまま、その場所に行って、さあ、撮影しましょう。とやっているわけではありません。

あらかじめ、それぞれのタレントの役どころ、流れ、どんな店がどのあたりにあって、そこでは何をどう撮るのか、という構成、つまり、番組の設計図のようなものがあります。

それに沿って撮影しているために、今、誰の視点で、何を捉えているのか、がわかる映像になっているのです。

どんなに小さな番組であっても、どんなに大きな規模の撮影であっても、番組の構成があり、撮影や編集にかかわるスタッフがそれを理解しています。

もし構成がなければ、そろそろ店がある、という案内図や看板を見つけられないかもしれないし、店があるという気配を捉えることができないかもしれない。

それどころか、目の前の建物が店だとわからず素通りするかもしれない。

テレビはあらかじめ、構成によって、見せるポイントを決めており、そのポイントをおさえた撮影をしているため、視聴者は迷うことなく、そのポイントを見ることができるのです。

自然に、そのポイントに目が行くような構図で撮影されているのです。

例えば、タレントのなかでシーンを引っ張る役割の人は、センターに立たせます。

看板を見つけるシーンだと、看板にズームインします。

人の配置や画角、カメラの動きは構成に基づいています。

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一筋縄でいかない編集

そして、撮影したら編集しますが、ある程度映像がつながったら、プロデューサーに見てもらい、分かりづらいところや、誤解を与えそうなところ、正しくないところなどが指摘され、どう修正するのかを決めます。

これをプレビューと言います。

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このチェックは、映像がつながったとき、テロップをいれたとき、ナレーションをいれたときに行われ、プロデューサーの人数は最低でも3人、と複数の目で確認されています。

放送に至るまで、複数の目で複数回、「この映像は伝わっているか?」「この映像はわかりやすいか?」「誤解を与えないか?」を確認されて、視聴者へ届けられています。

編集では、紛らわしい表現を一切排除し、修正を繰り返しています。

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ディレクターに求められていること

分かりやすくするために、ディレクターに求められているのは、自分の常識を信用しない、ということ。

自分が常識だと思っていることが、世間でも通じる、わけではないということを知ることからスタートします。

アシスタントディレクターのころは、たくさん失敗してディレクターから叱られます。

その原因は自分の常識から逃れられないところから起きています。

アシスタントディレクター時代には、

  • お前の説明はわからない。
  • 調べていないのに、それが正しいと言うな。
  • 辞書で調べた?それ、どこに聞いたの?

とよく叱られます。

アシスタントディレクターの間に、自分がわかっていること、知っていることが正しいわけではない、ということを叩き込まれ、調べること、裏どりすることに慣れていきます。

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分かっていることを伝えるのは難しい

分かっていない人に伝えるのは、難しい。

理解するよりも難しいかもしれません。

このご時世、免疫学や東欧の専門家が呼ばれていますが、なぜ、同じ人ばかり出るのか。

それは、視聴者に伝わるようにやさしいことばでしゃべれる人が少ないからと言えます。

専門家は専門用語を使って、言い回しも難しいものですが、その専門の領域にいる人とは通じ合えることばです。

専門用語を使わずに専門的な話をすることは、一般の人たちに話をし慣れてていないとなかなかできません。

専門家の方たちは、専門分野を学んだり理解することはたやすくできるのでしょうが、分かっていることを伝えるのは、また別の能力やスキルを要し、それを身に着けるのは難しいものがあるのです。

テレビ業界に入る若い人たちは、好きな番組があったり、テレビを見る習慣がある人がほとんどです。

親和性が高いので、作る側になりたい、と思ってくださるのですが、ディレクターになる前に離職する人が多い業界です。

それは、わかりやすさを追求する上で生じる難しさを乗り超えることができない、ということが一因です。

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imacharin
テレビ制作歴25年。テレビの業界の内側と、テレビ番組の裏側をわかりやすく発信していきます。


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