テレビ番組制作の現場では、専門用語が飛び交っています。
新人ADが、面食らうのは、専門用語が何を指すのかわからない!
ということで、よく使われている用語について説明していきます。
今回は、編集作業中に使われる用語を中心にしていきます。
- 素材
- 荒編 「あらへん」と読みます。オフラインともいいます。
- 本篇 「ほんへん」と読みます。オンライン、V-V、EEDともいいます。
- MA
- 完パケ
今回はこれらの用語について解説します。
素材
収録してきた映像のことを素材と言います。
収録メディアは、近年、SDカードが主流となりつつあります。
少し前までは、DVカムというテープでした。
どれくらいの素材を集めてくるかというと、大体放送時間の10~100倍とイメージしていただければいいかと思います。
下の画像は弊社グループの実際の制作現場です。
1時間番組のドキュメンタリーだと、100時間くらい収録してくることはざらです。
スタジオ収録のバラエティだと、収録時間は4時間程度ですが、スタジオにカメラは、4台5台あったりします。
単純に、4台分のカメラがそれぞれ4時間収録していたら16時間分の映像が素材となります。
今は、収録メディアは、データが増えてきました。SDカードが主流となりつつあります。
1日の取材が小さなカードに収まるようになりました。
SDカードの前は、DVカムというテープでした。
このDVカムというテープは片手に収まるサイズでしたからポケットに入れて現場を走り回っているとうっかり
落としてしまう恐れがありました。
SDカードは、それよりももっと小さい、幅1.5センチ、縦2.5センチほどのカード。
裸で持ち運びしようものなら、ノートや書類やレシートの間に挟まってしまうか、鞄の中で紛れてしまうか、簡単になくしてしまいそうです。
落としても音がしないため気づくはずはありません。
カード自体が不良品で、もともと傷がついていたり収録ができない状態だったりということもあります。
そういうときに備えて、収録はダブルスタンバイしておくことがあります。
かつてテープの時代は、1本の収録時間が30分程度でした。
テープチェンジするときは素材チェックをしていたので、テープに収録されていなかった!傷が入っていた!という場合、
そこで気が付いて、その日のうちに、撮り直すことが可能だったのですが
1日分の収録がSDカード一枚ですと、途中途中で確認することができなくなりました。
小さくて軽くなってしまったが故に、その管理をしなくてはならないADさんに余計な手間や心配を与えるようになってしまいました。
小さくて軽いから、その扱いや素材に対する思い入れも軽くなっていくのではないか、と心配です。
1日分の素材はなくしたらおしまい。
同じものを復元することはできません。
費用をいくらかけようとも、その日に収録したのと同じ映像は二度と撮れないのです。
素材の管理はADさんの仕事。
こんな小さなカードをなくさず、消さずに持ち帰り、編集用のハードディスクにコピーするまで気が気ではありません。
なくさないように、専用のケースやカードホルダーに入れて持ち運びますが、素材にメモをするところが極めて小さいので、これまた、工夫しなくてはならないことが増えてしまうのです。
便利になればなったで、作業や心配するところが増えてしまっているように感じます。
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荒編
オンエア尺に合わせて、編集していく作業を「荒編」(読み「あらへん」)と言います。
粗編集と書くこともあります。もしくは、オフラインと言います。
1時間番組であれば、CMの分数をのぞくと、正味40分から45分くらいです。
10時間から100時間集めてきた映像を、一回の編集で放送の正味尺に縮めることはできません。
まずは、このカットは使えるだろうというのを集めていきます。
使えるカットはOKカットといいます。
「抜き」という作業で、まだ、編集段階ではありません。
使えるシーンやカット、使えそうなコメントを取り出していく「抜き」の作業で3時間くらい取り出します。
ここから、このシーンでこういう説明をしていきたい、と構成していきます。
この構成をしながら、つないでいく作業は、1週間から10日間くらい。
オンエア尺+5分から15分くらいにまとまったところで、プロデューサーに一度見てもらいます。
ディレクターが収録して編集するわけですが、ずーっと映像を繰り返しみていると思い入れが強すぎてしまって、どこおもしろいのか、自分が何を訴えたいのか、冷静に判断できなくなってしまいます。
何度も何度も見るので、新鮮味もなくなります。
客観的にわかる説明になっているのかどうか、心もとなくなってきます。
プロデューサーに見てもらうことで、初見の人にわかるのかどうか、どこでウケるのかどこに心動かされるのか、がわかります。
そのシーンを大事にしながら、どうアプローチすれば引き立つのか、足したり引いたり、差し替えたりしながら、尺を切っていきます。
プロデューサーからこのシーンはわかりづらい、とか、このコメントを効かせたいからもっと引き立つように盛り上げを考えてほしい、とか
説明がわかりづらいから、もっとシンプルに言い替えて、とかいろいろなアドバイスをもらいます。
それに沿って、シーンを作り替えたり、並べ替えたり、切ったり、つけ足したりと、直しの編集をしていきます。
プロデューサーからOKが出たら、次のステップに進めます。
プロデューサーによるプレビューは3回くらい。
放送尺が30分程度の番組だと、荒編は1週間から2週間程度でしょうか。
荒編はパソコンで作業します。
編集ソフトは
- ファイナルカット
- プレミア
- エディウス
がテレビ制作の現場では主流です。(編集ソフトに関しては→テレビ業界で実際に使われている3大映像編集ソフトについて解説で解説しています!)
テレビ番組制作は複数の制作会社や複数人のディレクターが分業で行うことがあります。
ディレクターが使うソフトがまちまちだと最終的に1本化することができませんし、統一性がありませんので、
最初に番組プロデューサーが、この編集ソフトを使ってね、と決めておきます。
以前はファイナルカットを使うディレクターが多かったのですが、今はプレミアの勢力が大きくなっています。
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本編
「ほんへん」と言います。本編集の略です。
オンラインとも、V-Vとも言います。
V-Vは、Video to Videoの略です。
EDDということもあります。Electrical Editingの略です。
荒編でプロデューサーからOKが出ると、本編をします。
本編は、ポスプロ(ポストプロダクション。スタジオとも言います)で行います。
本編での作業は番組フォーマット(CMの入れ方などの番組統一ルール)に合わせて編集をしていきます。
例えば、CM入りは3秒ののりしろ(「捨てカット」もしくは、単に「捨て」と言います)を付けるとか、細かなルールに合わせていきます。
30分番組や1時間番組、それ以上の長尺ものだと、CMが2〜4回以上入ります。
CMも60秒、90秒、120秒などまちまち。
本編では、尺を番組フォーマットに合わせていくこと、色調整、シーンやシークエンス、コーナーの変わり目を、特別な編集演出を施したりします。
一番単純な編集は、カット編集ですが、次のカットから新しい情報に変わりますよ、と知ってもらいたいときは、DV(digital video effect=ビデオ効果)をかけます。
- 尺調整
- 色調整
- DV
をかけた段階のものを、「シロ」、もしくは「白素材」といいます。
シロが出来上がった段階で、映像を保管しておきます。
それからテロップを入れていきます。
テロップというのは、字幕のことで、スーパーともいいます。
テロップの文字が間違っていたということがあとからわかることがあります。
地名や人名の漢字が間違っていたり、英語表記の綴りが間違っていたり、テロップを入れ終わってから気づく、ということがあります。
編集作業において入れてしまったものを消すということができません。
なので間違ったところは白素材の映像を重ねて、その部分だけシロに戻して、再び正しいテロップを入れ直すのです。
そのためにシロは必要なのです。
パソコンの編集ソフト(ファイナルカット、プレミア、エディウス)でも色調整や、編集上の視覚演出、テロップ入れはできますが、
納品の日程や、放送の日時が決まっている(つまり、締め切りが決まっている)のでディレクターが根を詰めてはせずに、専門の編集スタッフに任せます。
何もかも自分でできるし、やりたい、という人はいますが、テレビは時間的な余裕がありません。
ディレクターは撮影でどういう映像を撮りたいのか、を考えるべきで、編集の加工はそれが得意な人に任せます。
編集のことを日々切磋琢磨している人に任せるほうが最新の技術を持っているし、作業が的確ではやいのです。
テレビ制作はチーム作業なので得意な分野がある人がその分野で頑張ればいいのです。
最近「ノンリニア」「リニア」という言葉も使われています。
例えば、スタジオでの作業入るときに、編集はノンリニアですかー?それともリニアですかー?と聞かれることがあります。
「ノンリニア」というのは、パソコンを使って編集すること。データでの編集です。
「リニア」というのは、テープを使って編集することです。VTRでの編集です。
テープ編集の時代のころにはなかった言葉です。
パソコンでデータ編集をするようになって、「ノンリニア」という言葉が使われ始めました。
「ノンリニア」じゃない、前時代のテープの編集を「リニア」と言うようになったと思います。
リニア編集とは、テープからテープへダビングしながら順番に編集していく方法。
つまり、頭から編集していき、カットが変わる度に、素材のテープを出して1本化用のテープへダビングしていきます。
ノンリニアは、テープという概念ではなく、コンピューターでの編集なのでどこからでも自在に編集できるということができます。
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MA
「Multi-Audio」の略です。「エムエー」と言います。
一番最後の作業になります。
Audio とついているだけあって、音に関する処理をしていきます。
音に関する作業をする人をミキサーさんといいます。
まず、音楽を付けていきます。
音楽は、NHKだとオリジナルの楽曲を制作して演奏もNHK交響楽団がするという贅沢ができることがあります。
もちろん、予算によりますが。
民放の場合はジャスラックとの契約が締結している楽曲を使用することができます。
予算がない場合はフリー楽曲を使います。
音楽を付けるのは、音効さん「おんこう」と読みます。音楽効果の略です。
シーンやシークエンスの内容をよく読みこみ、その心情や景色に合う音楽を探してくれます。
CMに入る前の印象的な音や、あおりたいテロップがはいるとき、心に留めてほしいシーンやカットのところには、キャッチ-な音を効果的に入れることがあります。
クイズで正解や不正解の音とか、音で演出をしたいときは効果音をつけます。
こういう音のことをSE「エスイー」と言います。Sound Efectの略です。
音効さんの作業は1日2日かかるものですが、スタジオでの作業はデータで持ち込み、クリック一つで終了です。
データの前は8ミリテープを使っていて、尺だけの時間がかかっていましたが今は一瞬で作業終了。
そのあとプレビューしてみてシーンに合わないとかもっとこうしたいというディレクターの希望を聞き取って差し替えることはあります。
データで作業できるようになったころ、あるADさんが「音効さんの作業って楽ですね。俺、音効になりたい。」と言っておりました。
気持ちはわかります。
しかし、コピーする作業は一瞬ですが音楽を選定し、尺に合わせて調整する作業は、時間がかかるものなのです。
映像に音楽がついた途端、それまでの映像とはまったく違って見えます。
のっぺりした映像の流れから、凹凸がついて色彩豊かに感じられます。
あるディレクターさんが俺が今までやってきた編集作業はなんだったんだ…と言ったことがあります。
音楽がついたとたんに、映像に表情が生まれるのですから。
それくらい、音楽の力、音効さんのセンスが活かされるのです。
音楽を入れ終わったらナレーションを入れる作業です。下の画像は実際の現場の写真です。
ナレーターさんに原稿を読んでもらいます。
一度、テストで読んでもらって、
- 聞き取りづらいところ、
- 尺に合わないところ、
- 日本語としておかしいところ、
- 意味を違えて受け取ってしまうところ、
- 情報が間違っていないかどうか
などをチェックしながら、聞いていきます。
ADさんは
- 地名
- 人名
- 店名
- 商品名
- 時間
- 値段
などをチェックしながら聞いていきます。
間違っていたら、訂正する最後のチャンスです。
ナレーションを入れ終わってナレーターさんが帰ってしまうと修正するのが難しいのです。(できなくはありませんが)
音楽を入れてナレーションを入れたら、音楽とナレーションを微調整していきミックスしていきます。
これで作業は終了です。
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完パケ
完成した一本のテープを完パケと呼びます。
これが局に納品されてオンエアされるのです。
テープはもちろん、ダブルスタンバイしておきます。
納品したテープが万が一、どこかに紛れてしまった、なくなってしまった、傷が入っていた、という可能性もありますから。
今回はテレビ制作業界の映像編集における現場用語についてお話してみました。
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