テレビ番組制作をしたい!と思っている学生さんたちのほとんどが「バラエティ番組を作りたい!関わりたい!」といいます。
テレビ業界に入ったら、アシスタントディレクター(AD)からスタート。バラエティ番組のADはどんな仕事内容なのでしょうか。
ADの仕事とは
ADの仕事は、「仕込み」と「段取り」と「裏どり」です。
テレビ番組の制作工程は、おおまかな流れは、「企画」→「撮影」→「編集」ですが、その流れのなかで、ADの仕事「仕込み」「段取り」「裏どり」はどう絡んでいるのでしょうか。
『有吉の壁』『逃走中』『笑ってはいけないシリーズ』などのようなロケもののバラエティ番組で解説してみます。
1「企画」期における「仕込み」
テレビ番組では、ロケをする場合、撮影したい場所の管理者あるいは所有者、管理者と所有者が別の場合その両方に撮影許可を取らなくてはなりません。許可が下りない場合、そこで撮影することができないのです。
バラエティ番組の場合、ロケ地を探して許可をとるのが、アシスタントディレクターの仕事である「仕込み」。
例えば、企画時にこういう案がでたとします。
- 出演者10人が、連続して落とし穴に落ちる
- 使われていない病院で、幽霊のドッキリ
- 派手な爆発のなか、カースタントで疾走
- 100人のゾンビが追いかけてくる
これらの撮影をさせてくれる場所を探すのがADさんの仕事です。
東京から車で移動できる距離で、
- 巨大な落とし穴を掘らせてくれる施設
- かつて病院として使われていてその残骸がある施設
- 爆薬使用がOKの広い場所
- 100人がメイクできる場所もある広い敷地
をリストアップして、一件ずつ電話かメールで撮影で使わせてもらえるかどうか問い合せをします。仕込みは場所を探すだけではありません。同時に次のような準備をして、とディレクターやプロデューサーから言われるかもしれません。
- 落とし穴をつくる準備、あるいは、落とし穴をつくる職人の手配
- 幽霊役の手配、幽霊の衣装や小道具の手配
- カースタントの会社を探す
- 100人の出演者の手配、メイクさんの手配、衣装の手配
撮影の前日には、リハーサルで出演者の代役で落とし穴に落ちてみたり、カースタントに同乗したりするかもしれません。
撮影で出演者にケガをさせないように、あらかじめケガする可能性を排除しておかねばなりません。
2「撮影」時における「段取り」
「段取り」とは、撮影スタッフ及び出演者を時間通りに集合させて、撮影が潤滑に進められるように、その都度、必要な準備をしておき、そのシーンの撮影が終わったら、撤収して撮影前と同じ状況に戻します。
撮影スケジュールが出たら、撮影スタッフや出演者のマネージャーに撮影スケジュールや移動手段、集合場所の地図などを送付します。
制作スタッフは設営から撤収までその場所で作業することになるので、食事や宿泊の手配も必要かもしれません。
というふうに、撮影で起こり得ること、必要であろうことに対して、対応策を準備してスケジュールを立てて、必要そうなものは揃えておくというのが、ADさんのお仕事です。
ディレクターの指示によって、小道具やら衣装やらも用意せねばなりません。購入したり借りたり、自分で作成するっていうこともあります。
学生のころは、ボタンひとつつけたことがなくても、いきなり衣装をつくらねばならない、ということもありえます。義務教育で家庭科や図画工作があってよかった、と思う瞬間です。
業界用語に「消えもの」と呼ばれるものがあります。それは、料理。バラエティ番組で使われる料理は、ADさんが調理する、ということもあります。ちなみに、テレビ局のなかには、「消えもの室」と呼ばれる部屋があります。収録スタジオのそばにあるのですが、これは、スタジオで出す料理をつくるためのキッチンのことです。
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3「編集」時における「裏どり」
バラエティ番組は芸人さんや出演者のフリートークやリアクションが多いもの。
出演者たちは、ネタをしっかり用意してくる場合もあれば、トークの流れで記憶を頼りに話にのることがあります。
過去にいただいた差し入れのこと、歴史上の人物の逸話、誰かのブログに書かれていたこと、YouTubeでみた動画、その場にいないタレントのエピソード…
それらを使うなら、それが事実かどうかを調査します。
例えば、「徳川家康の死因はタイのから揚げの食べ過ぎだった」と出演者が話したことを使いたい場合。視聴者に誤解を与えない文脈かどうか、を検討します。
この一文だけを抜粋して使用するなら、解説あるいはウケのナレーションかテロップのフォローが必要となります。
どんな処理をするかはディレクターの判断ですが、判断材料として、ADは、「徳川家康の死因」と「タイのから揚げ」について調べます。
調べてみると、死因は「胃がん」説が多いこと、タイのから揚げではなく、タイの天ぷらを食していたことなどが分かってきます。
そうした場合どういうフォローをするか、をディレクターは考えたり、尺の調整考えてカットしたり、と編集していくのです。
バラエティ番組のアシスタントディレクター時代は、バラエティの「面白さ」からはかけ離れた作業が多いのです。最初のころはとくに、撮影の準備をしているか、片付けをするため、撮影の現場に立ち合えないこともあります。
たとえ撮影を見れなくても、自分が関わったり作ったりしたものが盛り上がったり、テレビに映ったりするだけで嬉しいし、番組に貢献したな、と感じます。
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ADの最初は、思ったイメージと仕事内容が違うもの
「仕込み」とは、企画会議で出てきたアイデアを実現させるために、場所を探して出演者や小道具など必要なものを手配すること。
「段取り」とは、撮影するためのスケジュールを組み、スタッフ出演者が時間どおりに集合場所へ来れるように知らせて、撮影が滞りなく進められるように準備をし、大ごとなく予定時間に撮影終了し、原状復帰するまでを責任もってやること。
「裏どり」とは、番組で流す情報が正しいのかどうかを調べること。
最初はここからのスタートですが、経験をつんで、チーフADやフロアディレクター、ディレクターへと昇格していきます。
周囲に優秀な先輩や厳しい先輩もいますが、みんなそういう経験をしてきています。
思い描いた仕事と違うな、と思っても、すぐに後輩が入ってきます。2年くらい頑張れば、チーフADになって、撮影現場を仕切るようになります。このあたりから、想像していたような仕事をしているな、と実感するようになっていきます。
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