箸上げとは?料理を魅力的に見せる演出、ADがやる準備4ステップと裏技
料理を紹介するときの映像の流れは、全体像からだんだんと細部へアップしていきます。
- 料理全体を見せる
- メインの料理を見せる
- 料理をすくって(あるいは切り分ける)
- 持ち上げます。
③④を「箸上げ」といいます。
見出し
『箸上げ』の意味
おいしそうに見せるという演出ですが、外側の見た目と中身が違う料理は多いのです。
例えば、
- ラーメンなどの麺類
- カレーや丼もの
- オムライス
- グラタン
- ハンバーグ
など。
ソースやチーズや具がたっぷりのっている料理は中が見えづらい。
なので、切り分けて持ち上げるカットがあると、中がどうなっているのか、どんな状態か、見せることができますし、上にかかっているソースの質感もわかります。
割ったときに湯気や肉汁が出ると、さらに美味しさを視覚に訴えます。
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『箸上げ』を撮影するときの準備
箸上げを完璧に撮影するには、万全な準備をします。
番組の撮影だと、機材のスタンバイで30分ほどかかります。
箸上げの撮影はアシスタントディレクターの主戦場でもあります。
①黒幕をはる
料理を撮影するテーブルを決めたら、黒幕をテーブルにしき、後ろの背景 が隠れるように黒幕を張ります。
料理の後ろに店内のいろいろなものが映りこんでいると、料理が映えないことと、黒幕を張ることで、湯気が撮りやすいためです。
②空の皿を置いて、セッティングする
料理につかわれているお皿を借りて、黒幕の上に並べます。
これは、カメラマンに構図を確認してもらうためです。
③冷房をガンガンきかせる
温かい料理なら、冷房をガンガンきかせます。
料理と外気の温度差があるほど、湯気が出やすい。
冬なら暖房をオフにすることもあります。これも、湯気を撮影するためのひと手間。
④料理をセッティングする
主役ではない料理からセッティングします。
メインの料理は一番最後。
メインで撮影する料理はできるだけ、一番おいしい状態を撮影したいため、最後にセットします。
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箸上げの裏技
裏技①湯気を出す
湯気を撮影するために、普段よりも熱めに仕上げていただきます。
見た目で味を表現するためです。直前に電子レンジで温めることもあります。
とにかくアツアツの状態にしてカメラ前に置きます。
裏技②照りを出す
照りを出すために、サラダ油を刷毛で塗ることもあります。
例えば、握りずしや刺身などの生ものを撮影するとき。
照明をあてて撮影するので、すぐに表面が乾いてしまいカピカピになってしまうのです。
裏技③箸上げ撮影用のグッズ
あると便利なのは、
- 刷毛(照りを出すための、タレやオイルを塗るため)シリコン製の小さいのでOKです。
- ふきん(こぼれたソースをぬぐうために使います。ティッシュでも)
- 盛りつけ用の細い箸(料理人が盛り付けるときに使う、尖端が細い箸)
- サランラップ
といったものです。
湯気や照りは偽りにならないの?
撮影するときに、過剰に湯気を出したり、照りを出したりしているのですが、それはやりすぎでは?と指摘されることがあります。
もし、料理をありのままに撮影すると、湯気もなく、照りもなく、おいしくなさそうに撮れてしまいます。
しかも、時間が経つにつれて、料理はどんどん冷めていきますし、冷めると固まっていきます。
麺類はとくに悲惨で、パスタにしてもラーメンにしても、麺が絡まったまま固まります。
それが料理のリアルな姿ですが、実際にはお客さんたちは目の前に料理がきたら、すぐ料理を食べ始めちゃいますよね。
麺類はほぐしながら食べますから、リアルなそんな姿はほぼ見かけません。
つまり、照明をあてたり、熱湯をかけたりして撮影するのは、料理がテーブルに届いて、わ~おいしそう!って思う瞬間の料理の姿を、撮影に必要な時間(とはいっても、3分程度)維持させるべく、そうしているわけです。
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いざ、箸上げ 4つのコツ
①料理の特徴をひと匙に盛り込む
いざ、持ち上げる前に、箸ですくった状態あるいは、スプーンやフォークにのせた状態を作りこみます。
リアルにすくった状態だと、こぼれたり垂れたりして美味しそうではありませんし、料理の特徴が分かりづらいかもしれません。
料理の特徴を一すくいに盛り込みます。
②箸を上げる位置、スピード
カメラマンとの息を合せなくてはならない、緊張の一瞬。
箸やスプーンを持ち上げるスピード、速すぎてはカメラが追いつきません。
そして、持ち上げる高さ。
高すぎても低すぎても、バックに映り込むものが気になります。持ち上げるはやさや高さは、映像をモニターアウトして、自分で見ながら調整します。
③形や大きさ、質感が分かるように角度をかえる
形や大きさに特徴があるものだと、動きをつけないと平面的に見せてしまい損です。
箸上げをしてある程度の高さにとめたら、手を返して、角度を変えます。
料理を立体的に見せるコツでもあります。
④震えを抑えるには
箸上げは、かなりズームして撮影していますから、少しの震えであってもブルブル震える映像になってしまいます。
箸を持っているADが最も緊張するとき。ディレクターやカメラマンから「震えてる!」と叱られるときも。(叱っているわけではなく、面白がってるのですが)
これは人それぞれに工夫をしています。
例えば、右手で箸をもち、左手で右手を支えたり、息を止めたり。
しかし、これらは有効なときもありますが、よけいに震えることもあります。
いちばん震えが出ないのは、箸上げする前に深呼吸をする。
そして、箸をとめたら視線を料理から外して、遠くの一点に集中して、料理以外のことを考える、です。料理に意識が向かうと、緊張が高まるので、料理から意識を外すのです。
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効果的に編集するには
基本は、全体から伝えたいことへ詰めていくイメージです。
料理全体(例えば定食のセットや、ランチコースとか)→メインの料理→箸上げの順番。
コメントも録っているなら、コメントに合せて挿入します。
コメントやナレーションをつけない場合であっても想像しながら並びを考えます。そうすると、このカットで何を伝えたいのか、が明確になっていきます。
箸上げが上手くできるようになると、「箸上げ職人」と呼ばれるようになります。
ADにとっては、緊張する撮影ですが、楽しくもあります。もちろん、撮影したあとの料理は、スタッフみんなでいただきます。


