今回はキー局でデスクのお仕事をされている田中さんにインタビューしました。
田中さんはもともとテレビ業界とは全く別のお仕事をされていて、そこから転職されて業界に入った方です。
テレビ業界に入ってからはAD(アシスタントディレクター)を経験されてからテレビ制作デスクのお仕事に就かれました。
テレビ制作デスク。
ときどき耳にしますが、具体的にどんな内容のお仕事なのでしょうか?それでは田中さんのお話です。
テレビ業界未経験の転職
大学を出て最初に就職したのは、大手電話会社の子会社でした。
1日300件ほど営業の電話をかける部署に配属され、営業成績は悪くなかったのですが、成績を毎日評価されるのを負担に感じて、退社しました。
その後は、いくつかの派遣会社に登録して仕事をしていました。
いろいろな会社に派遣され、それぞれの業界のしきたりや社風を見られたことは、今振り返るとテレビ業界で働く上で良い経験になったなと思えます。
もともとテレビ、ラジオの世界に興味はありました。
大学では放送学科に在籍し、専門的に勉強もしていたのですが、その頃は大阪の実家を離れるつもりはありませんでした。
大阪のテレビ局や、番組制作会社をいくつか受けたものの、就職活動をするべき時期にのんびりしていたこともあり、そのときは縁がありませんでした。
でも、20代も後半に入った頃、テレビの仕事をもう一度挑戦してみようかと、東京でテレビ制作会社をいくつか受けて、この世界に入ることができました。
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まずはテレビのADとして働く
テレビ業界に入ってすぐ、キー局の夕方のニュース番組の特集コーナーを2つ経験しました。
ADとしてロケや編集に初めて携わり「Qシートって何ですか?」とか、先輩に聞きまくっていました。
基本的にテレビ業界未経験の場合は最初はADとして働くことになります。
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その頃は失敗談もたくさんあって、
ロケのとき、バッテラ(バッテリーライト)が重くてじっと持っていられず「ライト動かすな」と叱られたり、
グルメロケでよくある箸あげ(食べ物を箸で持ち上げること)をさせてもらったとき、箸を持つ手がぷるぷるし、震えが止まらなくて、カメラマンさんに笑われてしまったこともあります。
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また、別のテレビ番組では、たくさんいるADの1人として、ほかのADと仕事を分担することになり、
最初はテレビ番組がどうやって出来上がるのか分からないまま、社内許諾の為にテレビ局の社内を走り回ったり、過去の映像を検索して目的の映像を探す作業に四苦八苦しました。
それは朝の番組だったので、前日の夜からの泊まり勤務の日は、よく帰りに電車を乗り過ごして、知らない駅でハッと目覚めることがありましたね(笑)
当時は、ときどき「囲み取材」にも行きました。
「囲み取材」とは、タレントさんを囲んで取材することですが、テレビレポーターが居なくて、ADが代わりにリポーターとして現場に行くことがあったんです。
何回もタレントさんにマイクを向けて「囲み取材」をしましたが、ものすごく下手で、何度もカメラマンに叱られました。
ある大物歌手の囲み取材の時。
その方に向けてマイクを持った手を伸ばしていたのですが、かなり遠くて、マイクを落としそうになってしまい、歌手にマイクを持たれた(持ってもらった)ことがあります。
話した後「はいっ」て渡して下さいましたが、他局の皆さんに笑われ、音声さんにはすごく怒られました。
マイクは精密機器ですし、とっても高価なので、大事に扱わないといけないんですよね。
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テレビ業界は思ったより優しかった
テレビ局ではたくさんの制作会社のスタッフが働いていますが、
たとえば社内の許諾のもらい方や、いろいろな書類の申請方法など、分からない時は聞けば何でも教えてくれるところがすごいと思います。
さすがに、生放送前の報道フロアなどでは「ごめん、後にして」と言われてしまうこともありますが、時間をわきまえて聞けば大体優しく教えてくれます。
テレビ業界では「外部のスタッフがたくさんいるから、分からなくて当然」という感覚があるのだと思います。
番組の先輩AD以外にも、ライブラリーの方、総務ファシリティー、IT推進の部署の方などに、最初の頃はすごく丁寧に教えてもらえて助かりました。
最初は、テレビ業界はちょっと怖いところかも…なんて思っていましたが、情報、報道番組においては、業務で怖い思いをしたことは特にありませんでした。
ただ、お酒の席では、ビックリするくらい呑む人が多いです。
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テレビの制作デスクの仕事内容

私が就いているのは「制作デスク」という職種です。
これは、たぶん報道局だけの職種だと思います。
テレビ業界には番組のジャンルによって職種や仕事内容が少しずつ異なるので。
制作デスクの仕事はバラエティーなどでは、AP(アシスタント・プロデューサー)と言われる職種と同じような業務内容だと思います。
また、その日のテレビの放送項目を決める役職の「デスク」もあります。「今日の放送のデスク」等と言うときはこの「デスク」です。「制作デスク」とはまた違う仕事です。
「制作デスク」である私の業務は、プロデューサーやAPの下で、
- 出演者やナレーターのマネージャーさんと連絡を取ってスケジュールを管理する
- 本番の控室や、編集室の手配
- テープ管理
- 番組宛ての請求書の処理
などをすることが主な内容です。
また、放送済みの映像の二次使用の情報をまとめたり、他番組への許諾の窓口的な仕事もテレビ制作デスクの仕事です。
あとは、大学や専門学校を卒業し、初めてのひとり暮らしを経験しているADさん達のお母さん的な役割でしょうか。
愚痴を聞いたり、体調を確認したり。
特に男性のプロデューサーは女性のADの体調を聞きにくかったりしますので、制作デスクの私が代わりに確認したりします。
最近はテレビ業界でも、女性がかなり増えてきているんです。
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制作デスクのやりがい
できるだけスタッフの不安要素を取り払ってあげることが大事だと思って、いつも制作デスクの仕事をしています。
無理を言って用意してもらった編集室の予約を、前日の夜中にキャンセルしますと言われることもあります。
そういうときは、どう言って先方に謝ろうか、次の予約が出来るかしらと悩むこともありますね。
また、前から考えていたネタが、急にボツになって最初からやり直さなければならないということがあります。
よくあることなのですが、そういうときはもう仕方がない、きちんと謝ろうと覚悟できるようになりました。
ただし、上手に断ることが大事なんですよね。
「断るときは、しっかりはっきり」、そして「本当に申し訳ない」という気持ちが伝わるように、と心がけています。
テレビ業界ではそういう「気持ち」を大切にして仕事をすることが結構重要なのではないでしょうか。
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制作デスクとしてやりがいを感じるのは、うまく段取りが出来たときですね。
出演者やナレーターさんたちに気持ちよく出演して頂ければより良いテレビ番組になると思っているので、
当日のスケジュールや、出演者のお迎え時間、打ち合わせ時間、本番、そしてお見送りまで、ゲストに不自由がないように気配りが出来たときは、今日は良い仕事ができたかなと思えます。
もちろん本番当日までの用意も大事なので、そこは事前にシミュレーションします。
余裕を持って、でも、ゲストに手持ちぶさたな時間は感じさせないように、というのが制作デスクの仕事をする上での理想です。
また、ディレクターが急に編集室を使用しなければならなくなったときに、
フリーの編集マンを外部から連れて来て、空いている編集室ですぐに編集出来たときなども、役に立てたかなと思います。
今は、インターネットなどでたくさんの情報を得られ、かつ発信できるようになっていますが、感情的に不満をぶつけるような意見も多くなっている気がします。
もちろん、こちらが納得できるものも多いのですが、
揚げ足を取るようなクレームにおびえて、どんどんテレビが自由に作れなくなって来ているようにも感じます。
ネットとテレビがもっとうまくつながるといいな、と制作デスクとして、またテレビの作り手としては思っています。
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インタビューを終えて
「ずっとスタジオの生放送番組を担当しているので、いつか外国のロケにも行ってみたいですね」とおっしゃっていた田中さん。
制作デスクのプロとして職場で慕われ、頼られている雰囲気が伝わってきました。いつか海外ロケの夢がかないますように!(ライター・K)
