テレビは斜陽産業と言われますが、この先残るのでしょうか、それともなくなってしまうのでしょうか。
今、アシスタントディレクターで頑張っている人たちは「せっかく入った世界なのに、テレビを見ている人が減っている」「テレビはなくなるんじゃないか」といわれて「どうなのかな」と感じているかもしれませんね。
先のことは確たることは言えませんが、概ねテレビは残る、といわれています。データ的なところはさておき、制作している側からみて、テレビはこれからどうなっていくのか予想してみます。
2040年問題とテレビ視聴
2040年問題とは、
1971年から1974年の第二次ベビーブームに生まれた世代が65歳から70歳になり、少子高齢化が進み、65歳以上の高齢者がピークを迎えることで起こりうる問題を称しています。
今、高校生なら35歳くらい。新入社員の人なら、40歳くらいと、働き盛りの年齢です。
35歳から40歳は会社では中堅どころでベテランとなっているでしょう。
部下を指導する立場、チームをまとめるリーダー。家庭をもち、充実の日々を送っている年齢。まさに日本を支えるどまんなか世代。
そのころ、社会はどうなっているか。
人口は今よりも1000万人以上減少し、1人の高齢者を1.5人の現役世代が支えることになります。それは、働き盛りである世代への負担が大きくなるということ。具体的には、社会保険料が今の約1.6倍になると予想されています。
それが、どうテレビと繋がるのよ?と思いますよね。
月収入のうち、現在3万円の社会保険料を払っているとしたら、2040年に同程度の収入だと、約5万円の支払いになるだろうっていうこと。一人暮らしで、生活費もそれほどがかからず、お金をかけなくても楽しめる趣味があるから大丈夫、と思っていても、家庭をもち、扶養する家族がいてとなると、生活や趣味にかけるお金の使い方や考え方は変わります。
テレビ視聴は無料なので、お金がかからず、複数人で楽しめるメディアという形は、需要があるんじゃないかと思います。
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テレビと配信動画サービス、無料動画サービスの違い
配信動画サービスや無料動画サービスの特徴は、
- 通信
- いつでも好きなときに見ることができる
- 視聴傾向からオススメされる
- 好きな分野や発信者などニッチな動画がある
- テレビにはない、際どい企画や演出が見られる
が、上げられます。自分の好きが尖がっていても、その分野の動画を見つけることができます。自分の「これが好き!」というセンサーにひっかかかる動画はキャッチできる、という特徴があります。
その反面、動画だけだと、「好きになるかもしれない分野」と出会わない、とも言えます。テレビは、世界にはこんな面白いことがあるよ、こんな技術があるよ、こんな歴史があったよ、と、私たちが知らないこと、行ったことのないところ、表に出ないバックヤードの世界、過去を見せてくれます。
貧困に立ち向かったり、困っている人を解決する技術やシステムを考えたりデザインしたり、ビジネスやNGOを起こしたり、といった行動を起こすきっかけだったのが、テレビで見たから、知ったからという人は少なくありません。
「好き」や「興味」を深めるには通信の動画が適していますが、「好き」や「興味」を見つけるにはテレビが適しています。どちらにも良さがあって、欠点があります。
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テレビはなぜつまらないのか?
とはいえ、テレビが面白ければ、テレビがなくななるのでは、なんて言われることもないハズです。テレビがつまらないから、ほかの動画に面白さを求めるのです。
なぜ、テレビはつまらないのか。それは、テレビならではの「公共性」「正確性」「公平性」のあるメディアでなければならない、という原則があるからです。テレビとネットの動画の違いは、世に出すスピード。
ネットのほうが制作から配信まで早い。テレビは遅い。なぜかというと、制作途中でのチェックがものすごく多い。しかも複数人が介入してチェックしています。
そこで、「これはどうなのよ?」と、どこかで誰かに疑問がおきれば、官公庁や公共機関に問い合せをして確認する、と一つ一つ、クリアにしていかなければならないからです。
制作者は、つねに、「これはどうなのよ?」と念頭に置きながら制作しているので、どうしても、これは安全、クリア、大丈夫、というラインを守ろうとします。
それでも今までの習慣や思い込み、面白さやアクシデントに引っ張られて、ラインを踏み越えてしまうことがあります。
これは、制作者だけではなくて、出演者側もそう。制作者も出演者も予防線を張って番組作りをしているから、どうしても無難なエリアに収まってしまう。だから、ツマラナイ、いつ見ても同じようなのしかやっていない、と思われているのです。
動画配信は、テレビで見られない設定や演出を売り物にしているほど。ちょっと過激だったり、本音が垣間見えるバラエティを見たいなら、動画配信の方が面白い。
グロテスクな表現やエロティックなシーンのあるドラマも配信サービスのほうが際どい。この傾向はもっとハッキリしていくかもしれません。
バラエティやドラマは動画配信で見るけど、ほかの番組はテレビ、という住み分け化していくかもしれない。
一人で楽しむのは動画配信で、家族で見るときはテレビとシチュエーションでかえるかもしれません。
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テレビが担う社会的役割
テレビで放送されている情報は「正確」である、というのが、社会的役割でもあります。
例えば、地震や大雨のときに、速報や警報がスマホから発せられます。スマホでそれらをキャッチしたら、テレビをつけませんか?つまり、速報は通信で、確認をテレビでしているのですね。同じ情報であっても、テレビで確認してしまう。それはこれからも変わらないと思います。
通信での情報は、人によって、何を見ているか、がまちまち。
地震がおきたときに、ネットニュースやポータルサイトを見ているのか、ツイッターを見ているのか、で得られる情報は違うのですね。でも、テレビを見れば、ある程度指標になります。
また、通信は環境が整っていないと見ることができないのですが、テレビは停電にならなければ、電源いれればすぐに見られる、という良さがあります。
もう一つのテレビならではの良さは、今までの映像がストックされている、ということ。
映像だけではなくて、制作者たちの取材ノウハウもストックされており、継承されています。歴史ものや動物や植物の自然もの、ワールドワイドなネタ、日本各地を再発見するような企画、ドキュメンタリーや会社など大きな組織を取材するのは、テレビのほうが圧倒的に強い。
いままでストックされてきたもの、積み重ねてきたものを活かせる強さがあります。
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テレビ局はどうなる?
テレビ局も、テレビ放送だけに執着しているところはありません。
どの局もネット配信事業を展開しています。
かつては、ネットをライバル視していましたが、今は、自社のなかにネットを組み入れています。
テレビは放送時間が決まっていて、その時間にテレビの前にスタンバイしておかねばならない、という縛りがありました。
テレビ局も、いかに、テレビを見てもらうか、に執心していましたが、今はいつでもどこでも好きな時に見てもらうためにどうするか、と思考が変化してきています。
テレビもネットもやっていく、テレビとネットを組み合わせて新たな楽しみ方を提案していく、テレビとネットとほかの媒体やリアルな体験を組み合わせていく、など、多層構造的なメディアになっていくかもしれません。
