テレビ番組での撮影では、カメラマンが撮影する場合と、ディレクターが撮影する場合があります。
どんなときにどちらに撮影してもらうのか、また、それぞれが撮影する効果や狙いについて、人気番組から紐解いて書いてみます。
今、人気の番組はドキュメントバラエティー。
テレビ朝日系で放送中の「ポツンと一軒家」と日本テレビ系「ヒューマングルメンタリー オモウマい店」。
どちらも高視聴率をマークしています。
2本に共通するのは、
- 人物が主体のドキュメントバラエティーであること
- スタジオ+VTRの構成
- VTR取材にタレントなし
- 全国ネットで放送されていますが「ポツンと」は朝日放送(近畿広域圏のANN系列準キー局)、「オモウマい」は中京テレビ(中京広域圏のNNN/NNS系列基幹局)、と、どちらも東京キー局制作ではない
といったこと。
さて、共通点が多いのですが、撮影はどうやっているのかを気にしつつ放送を見てますと、「ポツンと」はカメラマンが同行していますが、「オモウマい」はカメラマンは同行していないようです。
誰が撮影しているのか、という違いが見えました。
見出し
誰が撮影するのか、で視点がかわる
「ポツンと」は目的地にたどり着くまでが一つの山場で、一軒家に到着するまでかなりの分数を割いています。
かたや、「オモウマい」は料理から始まります。
いったいこの店はどこにあるのか、途中までわかりません。
途中で一回、スロットで表現されるのみ。
紹介されている店がどこにあるのか、気づかないまま見終わっていたこともあります。
「ポツンと」ではディレクターが最寄りのふもとから、山のなかの家に到着するまで、方角を確認したり、目印をみつけたり、道幅や道の舗装状況、景色などポイントポイントでリポートをしています。
カメラマンが撮影することで、そのポイントを的確にとらえることができます。
ディレクターがリポートしてカメラマンが撮影することで、視聴者は安心してみることができます。
かたや、「オモウマい」の方は、どこにその店があるのか、に重きをおいていません。
導入シーンである場所を例にあげましたが、つまり、情報をちゃんと伝えるときはカメラマンが撮影し、そうでないときはディレクターが撮影しています。
取材される人は、カメラマンがいるORいない、でどんな心理に?
カメラマンが撮影することで、取材される人は、「カメラで撮られている」という意識付けがされます。
「ポツンと」では、奥さんが出てくるときは、「スッピンで恥ずかしい~~」とか「お化粧するまでちょっと待って」と仰るときがあります。
部屋を案内してもらうときには、「散らかってて…」と主人がエクスキューズされるときもあります。
カメラマンがいることで、そのまんまの姿よりもよそ行きな感じを醸し出したくなります。
カメラに撮られている、ということで、カメラの先には視聴者がいるんだな、と意識されているかんじです。
ディレクター自身がカメラをまわすと、そうした感じが薄まります。
ディレクターはカメラを持っていますが、撮影される人は、カメラよりもディレクターの人柄やキャラクターの影響を受けます。
カメラを隠しているわけではないのに、あまり意識をしなくなるんですよね。
ディレクターは、お相手がカメラに慣れるまで待っているのだと思います。
つまり、カメラマンが撮影するか、ディレクターが撮影するか、で取材対象者との親密性や距離感がかわります。
関連記事:テレビカメラマンになりたい!撮影で意識していることや求められること
ロケの日数、どれくらい?
カメラマンのいる「ポツンと」は、推測すると2日。
家にたどり着いて、家の主と出会い、家や周辺を案内してもらったり、食事をつくってもらったり、お風呂を分けてもらったりで1日。
もう1日は、インサートカット(人がらみではないところ、説明カット、主のインタビューに挿入する映像のこと)と、ドローン撮影。
ほかに撮影の要素があればプラス1日でしょうか。
「オモウマい」は、3日から5日ほどかけていると思います。
店を訪ねて取材交渉、お客さんのウォッチング、厨房の定点、店主さんの1日を同行。
撮影期間のあいだ、カメラを持ったディレクターが店にずっといます。
最初は完璧に邪魔者です。
忙しいランチタイムや仕込みのときも、カメラ持って突っ立っているのですから。
ディレクターさんたちは、最初、居たたまれなかったと思います。
ときどき放送に登場するディレクターさんたち、決して器用そうにも見えません。
なんとかお店に馴染もうとその場その場で考えて行動している姿が目に浮かびます。
最初は撮影する人とされる人という関係性から、いつの間にか、店を手伝ってくれる人、になっていくんですよね。
多分、番組で使われているのは、関係性が変わったところからだと思います。
それができるのは、カメラマンがいないから、取材の終わりどころをディレクターが決められるのです。
カメラマンが入ってもらうということは、人ひとり、雇うことになるのです。
取材日程に制限があるときはカメラマンが撮影し、制限がゆるいときはディレクターが撮影するときがあります。
関連記事:インサート撮影とは?撮影方法や編集での使い方も紹介!
オモウマい店は、オールディレクターロケなのか?
そうではありません。
カメラマンが撮影しているところがあります。
それは、調理しているところと、料理のディスプレーカットです。
飲食店を取材するときは、料理はおいしく見せてあげなくてはなりません。
匂いや味や温度を映像で見せるためには、ディレクターでは役不足。
しかも、できたての料理をアツアツの状態で撮影するには、時間がわずかしかありません。
料理のディスプレーカットにはたくさんの情報が盛り込まれています。
例えば、食材や量、大きさや形状。情報を映像に盛り込むにはカメラマンに頼ります。
さらに、時間に制約があるときは、カメラマンに撮ってもらいます。
もう一か所、カメラマンが撮影しているところがあります。
それは、スタジオ部分です。
タレントさんたちがVTR映像を見ながら、リアクションをしているのがワイプで抜かれています。ここの部分はカメラマンが撮っています。
ディレクターの本音は「自分で撮影したくない」
ほとんどのディレクターは自分で撮影したくない、と思ってます。
それはどうしてか、というと、一度にやらなければならないこと、考えなければならないことが多いからです。
インタビューを撮影するときに、頭の中は、
- インタビューの質問を考える
- 相手の回答を聞き取り、本線からずれている回答なら軌道修正する
- インタビューの画角を決める
- 背景がごちゃついていないか、映り込むとまずいものはないか、確認する
- 音声がきちんと入っているかチェックする
- 水平がとれているかどうか
- ホワイトバランスはとれているか
- ノイズが入ってないか (外のサイレンの音、工事の音、車の音、話し声、BGM、空気清浄機や換気扇…)
などなど、一度に処理することが多いのです。
ディレクターは取材者の気持ちに寄り添い、質問を考え、話を聞きだすことに専念したい。そのため、撮影はカメラマンにお任せしたい。というのが本音。
ディレクターがカメラを回すロケの時はふだん使わない神経をフルで使うとのことで、ぐったり疲れて帰ってきます。
ディレクターが自分で撮影することで、取材対象者と親密な関係が生まれますが、企画によっては距離感をセーブしなくてはならないこともあります。
誰が撮影するのか、は、どういう視点で撮りあげるのか?何を撮るのか?取材する人とされる人の距離感など鑑みて決めています。
関連記事:ロケの仕事でADやDがミスしがちなこと
